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.経済  投稿日:2014/8/27

[田村秀男]<中国に対する甘い幻想を捨てよ>中国市場からの撤退・新規技術供与の停止など欧米と連携した対抗策を


田村秀男(産経新聞特別記者・編集委員)|執筆記事プロフィール

 

中国の対外攻勢は軍事・外交から経済・産業と広範囲にわたる。その粗暴さは1970年代末に始まった改革開放路線以来、かつてなかったレベルである。この夏を例にとっても、横暴ぶりを示すニュースの枚挙にいとまがない。

米軍偵察機に中国軍戦闘機が異常接近し、挑発行動を繰り返す。米軍が圧倒的に技術優位なはずの「サイバー戦」でも、中国は報復されてもへこたれず、盛んに攻撃を仕掛ける。

米国最大級の病院グループ、コミュニティー・ヘルス・システムズ(CHS)が、中国からハッカー攻撃を受け、約450万人分の患者の個人情報が盗まれた。米国などへのサイバー攻撃は無差別だ。オバマ政権からの警告を無視して衛星破壊のための実験を続けているし、レーザー兵器による衛星破壊や地上攻撃の能力を誇示する。

中国の独占禁止法違反を理由にした、進出企業バッシングの対象は、日米欧のべつまくなしだ。米マイクロソフト、ドイツのフォルクス・ワーゲン(VW)、日本の自動車部品大手12社を罰し、さらにトヨタ自動車も調査対象にされているという。

VWと言えば、日本のパナソニック同様、最高実力者鄧小平が健在な頃、いち早く中国に進出し、「井戸を掘った」企業と目されていた。独禁法うんぬんと言うなら、独占企業だらけの自国の国有企業や党指令下にある企業をまず問題にするのが、国際常識なのに、悪いのは外国企業ばかりと決めつける。一体、習近平路線とは何なのか。

江沢民元党総書記の子息が江派の軍長老に打ち明けた情報を最近入手して、そのナゾが解けた。

同情報によると、習近平氏を2012年、党と軍のナンバーワンの座に据えた江氏は「中国の実力はいまだに米国にはるか及ばない」とし、習氏は、最高実力者鄧小平が敷き、江沢民氏が継承した「韜光養晦・有所作為」原則を胡錦濤前総書記に続いて習氏も踏襲するよう求めた。

この8文字は、自分の能力を隠す一方で力を蓄えつつ、取るべきものを最低限とっていくという意だが、習氏はこれに対し、「今やわれわれの力で米国に十分対抗できるし、へりくだるのは無用」と譲らず、強硬路線を打ち出した。

2人の関係は断絶した。習氏は今年から本格的に対米柔軟派の上海閥締め出しに動き、軍上層部を強硬派で固める人事を着々と進めている。この分だと、沖縄県尖閣諸島付近の空海域への侵入や、南沙諸島への侵略行為も執拗さを増すに違いない。

投資主導で高度経済成長を達成してきた中国経済だが、ここに来て不動産開発投資がバブル不安のために失速する一方、鉄鋼、自動車、家電など国産メーカーは生産過剰に苦しんでいる。そこで党官僚は軍の対外強硬路線に倣って経済でも排外主義に走りだしたと見るべきだろう。

日本の財界ではいまだに「政冷経熱」期待が根強いし、政府のほうでは「中国を国際的な自由貿易の枠組に取り込む」とのたまう官僚氏も多いが、北京はさぞかしせせら笑っていることだろう。

日本としては中国に対する甘い幻想を捨て、米欧と連携して、中国市場からの企業の撤退、新規技術供与の停止などで足並みをそろえるなど、対抗策を真剣に考えるべきではないか。

 

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