【日本の「文民統制」は「官僚統制」】~政治が軍を統制しない国、日本 1~

清谷信一(軍事ジャーナリスト)
防衛省は防衛官僚(文官、いわゆる背広組)からなる内局で自衛隊の部隊運用を担当してきた運用企画局を廃止し、幹部自衛官(いわゆる制服組)からなる統合幕僚監部(統幕)に一元化する。これは背広組の制服組に対する優位を示すと防衛省設置法12条を改正し、両者を対等と位置づける。これによって「文民統制」が怪しくなるのではないか、という新聞などマスメディアの論調が強い。だがそもそも、我が国の「文民統制」は極めて怪しい。それを放置してきたのはマスメディアと政治である。我が国では長年防衛省において、背広組の制服組に対する優位があたかも「文民統制」であるかのように述べられてきた。だがこのような奇形な制度を有しているのは、筆者の知る限りはいわゆる民衆国家では我が国ぐらいだ。
これは「官僚統制」であって「文民統制」ではない。文民統制とは本来、選挙によって選ばれた政治家が軍を統制することを意味している(中国など一党独裁の社会主義国では共産党が軍を掌握)。選挙で選ばれていない官僚が「軍」を統制することは「文民統制」とはいわない。
我が国場合、この「官僚統制」の方がむしろ恐ろしい。自衛隊は「警察予備隊」が出自であり、また旧軍の反省もあって旧軍将校、将官を極力排除し、内務省警察官僚がその要職を占めてきた。警察出身の防衛事務次官が出ることも少なくなかった。
それは警察と自衛隊(軍隊)という2つの国家の暴力装置を、国民の付託を受けていない警察官僚がコントロールしているということだ。これは民主国家ではありえない話だ。日本の警察組織は極めて奇異である。地方警察の幹部はすべて警察庁に所属する国家公務員であり、警察庁が地方警察を完全にコントロールしている。このような強大な権力を警察官僚が独占している「民主国家」は我が国以外に無いだろう。
だが長年マスメディアはこの現実を批判してこなかったのだ。権力構造に対して鈍感すぎるとしか言いようがない。
その一方、自衛隊に対するコントロールが効いているとはいえない。政治が自衛隊(軍隊)をコントロールする最大の武器は人事と予算だ。ところが国会による予算の審議は、我が国の場合かなりいい加減だ。まともに議論がされているとは言えない。
その典型例が装備調達だ。普通の民主国家の場合、例えば戦車を調達する際にはその戦車が何の目的で、何輌(何個大隊、あるいは連隊分)がいつまでに必要で、それには総額いくらの予算が必要である。
例えば隣国A国が現在500輌ある第2世代の戦車を、8年後を目処に第三世代の戦車300輌に更新しようとしている。対して我が国は現在300輌の第三世代の戦車を持っているが、現状では近い将来A国に対する優位性が失われるので、現用の戦車300輌を10年後までに200輌の3・5世代戦車に置き換える。そのため総額2,000億円の予算が必要である、と言った具合だ。
またその際に開発が必要ならば開発費はいくら必要かが明示され、議会がそれを承認して調達計画にゴーサインがでる。だが我が国の場合、具体的な調達計画が明示されないまま開発が開始され、調達もなし崩しに開始される。
又、10式戦車にしても調達数も予算も国会は知らされないまま予算を認め、一体何輌をいつまでに調達し、総額いくらかかるかもわからない。陸上幕僚監部は当然ながら自分たちの見積もりを持っているが、それは公開されないし、国会や内閣が承認したものではない。
装備調達は企業ならば設備投資だ。どのような設備をどれだけ、いつまでに導入し、その総額はいくらかも決めないで設備投資をする企業は無い。仮にあってもそんな企業はすぐに潰れる。国会は無責任にも程がある。このようないい加減なシステムを変えようという機運が、政治にもメディアにも殆ど見られない。
(このシリーズ全2回。【「文民統制」の肝は人事と予算】~政治が軍を統制しない国、日本 2~ に続く)







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