[清谷信一] <海上自衛隊のシーレーン防衛はフィクション>日本には戦時に守る対象となる自国の商船隊が存在しない
清谷信一(軍事ジャーナリスト)
海上自衛隊はシーレーン防衛(注1)を長年主たる任務のひとつとしてきた。だが、戦時にエネルギーや食料などを運ぶシーレーンはフィクションであり、存在しない。最近の話題になっている集団安全保障の問題でもこのシーレーンの件があまり議論の的になっていないが、極めて不思議だ。
言うまでもないが、我が国は貿易に拠っている。工業製品を輸出し、その原料は勿論生活に必要なエネルギーも食料も輸入している。戦時に貿易ができなければ大問題だ。海自がシーレーン防衛を主たる任務に据えるのは当然のことだ。
しかし、そもそも我が国には戦時に守る対象となる自国の商船隊が存在しないのだ。日本商船は1980年に8825隻、3901万tだったが2011年には4164隻(主として内航船)、1536万tに減り、日本船籍の外航船は2013年6月でわずか150隻しか残っていない。
2012年で、日本の船会社が雇う外国籍船は2698隻に達し、日本の海運輸入量のうち、日本籍船が積むのは10.1%にすぎず、55.2%は日本の船会社が雇った外国船、34.7%は純粋の外国船で運ばれている。(注2)
国交省によると、戦時に我が国の国民が一定の生活水準を維持するためには、少なくとも日本船籍の商船450隻、日本人船員5500名が必要であるとしている。
日本には世界的な海運会社の商船会社があるが、保有商船の多くは税金の安いパナマやリベリアなどの外国籍であり、乗組員のほとんどはフィリピン人など外国人だ。船長以外、全部外国人という船も珍しくない(日本籍船の場合、船長、機関長は日本人と決められている)。
しかも日本人船員の組合である全日本海員組合は戦争には協力しない姿勢をとっている。これは先の戦争で帝国海軍が商戦護衛を軽視し、まともに護衛を行わなかったために多くの民間船員が死亡しているからだ。つまり、日本人が乗り組んだ日本船籍の商船も戦時には使えない可能性がある。
我が国には戦時に商船会社に対して船を運航するよう命令する、あるいは徴用するような法律もない。まして外国人船員に戦時の船団に乗り組めという強制などできない。例外は外国船による物資の輸送の「御願い」だが、だれが好きこのんで撃沈される危険を冒して外国のために働いてくれようか。
しかも現在の集団安全保障をめぐる憲法解釈ではこれらを海自が護衛することさえできない。海自のシーレーン防衛はフィクションにすぎないのだ。
- (注1) シーレーン防衛:通商上・戦略上、重要で、有事に際し確保すべき海上交通路の安全を相手の潜水艦、航空機、水上艦艇、破壊工作などから守るため、哨戒、監視、船団護衛、掃海など各種対抗手段を取ること。
- (注2)田岡俊次「安倍総理の「米国艦船守れず論」に4つの点で重大な誤り」http://diamond.jp/articles/-/53752)
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