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.政治  投稿日:2014/10/12

[清谷信一]【防衛駐在官の質の向上を図れ】~外務省出向システムでは機密情報が防衛省や内閣府に届かない?~


<上写真:南アで開催された見本市AADを視察する初の南ア防衛駐在官、海老名2佐>

清谷信一(軍事ジャーナリスト)

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今年から南アフリカへ防衛駐在官の派遣が始まった。サブサハラ以南では初めての防衛駐在官だ。同様に中南米でも初めてブラジルに防衛駐在官が今年から派遣されている。このように本年度から防衛駐在官の増員が始まっている。今後防衛省は防衛駐在官として派遣される前の研修なども増やしていくという。

だが、問題も多い。第一に防衛駐在官は防衛省から外務省に出向するので身分としては外務省の外交官となる。予算も人件費以外は外務省持ちである。外務省は軍事に理解がなく防衛駐在官に充分な予算を付けない。近隣諸国は勿論、国内の出張にも満足な予算がない。また防衛駐在官=武官が招待されるイベントは夫人同伴が多いが、外務省の予算では夫人に係る予算はでない。

元来武官は「制服を着たスパイ」とも呼ばれるが、我が国では領収書を必要としない機密予算はほとんど出ない。心ある防衛駐在官は自腹を切って情報収集を行っている。また防衛大臣によっては外遊のおり、機密費から防衛駐在官に領収書が不要な現金を渡す場合もあるが、これは極めて稀である。

防衛駐在官の人数やスタッフも問題だ。我が国の場合、米国を除けば1佐ないし2佐が一名だけ派遣されるのが通例だが、これでは充分な情報収集ができない。人脈の引き継ぎを考えれば一カ国あたり佐官と尉官を組み合わせそれぞれ、派遣時期をずらして人脈形成を心がけるべきだ。また情報収集のアシスタントとして語学や情報に強い尉官から曹、また現地採用の人間などからなるスタッフも必要だ。たった一人の防衛駐在官が陸海空すべてをカバーし、軍事に関係する政治や外交、経済、産業などまでカバーすることは不可能だ。またひとりでは情報を客観的に判断することも難しい。

更に付け加えれば、防衛技術関連の人員も派遣すべきだ。フランスはDGA(国防省装備庁)の駐在官を主要国に派遣している(我が国への派遣は必要性が薄いと判断され、我が国に派遣されていた駐在官の枠は韓国に移された)。我が国では技術研究本部や各幕僚監部の装備部などからの海外視察や現地での情報収集は極めて少ない。このため充分な防衛技術の情報収集が行われていない。技本ではネットの写真を参考に研究開発が行われることもあるというお粗末な状態が続いている。

本年度から武器輸出に関する政府の方針が防衛産業の輸出や国際共同開発が本格化することが予想され、諸外国の軍事技術の動向と情報を積極的に集めるべきだ。そのためには防衛駐在官に加えて、新設される「防衛装備庁」から主要国に駐在官を派遣すべきだ。

現在の防衛駐在官が外務省に出向するシステムでは、活動予算が充分に付かないことに加え情報が外務省経由となるために、必要な情報が防衛省や内閣府に届かないことも多い。また大使など主観で外務省本省や防衛省に送られる情報が歪められるケースもある。防衛駐在官は外務省に出向するのではなく、身分は防衛省のままとし、その予算は防衛省が負担し、充分な予算とスタッフをつけるべきだ。

 

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