[清谷信一]【「文民統制」の肝は人事と予算】~政治が軍を統制しない国、日本 2~
清谷信一(軍事ジャーナリスト)
筆者は、近年話題になったオスプレイについて何機導入するか、内局官僚にも、陸幕長にも、小野寺前防衛大臣にも、尋ねたが「何機入れるのは分かりません。導入してから考えます」と答えている。これでは運用構想自体存在しないといっているのと同じだ。当事者意識と能力の欠如が甚だしい。これでは防衛省や自衛隊を政治が統制しているとはいえない。まともな民主国家とはいえないレベルだ。またマスメディアがこのような異常なあり方を異常と思っていないことも問題だ。
ところが今回の防衛省設置法改正を批判、あるいは疑問しているメスメディアは殆どこのような現実を報道してこなかった。つまり新聞などは何が文民統制の意味なのか、を理解しておらず、情緒的に反対しているとしか思えない。
また政治家の質も問題だ。防衛が票にならないためか、防衛省の予算をまともに審議できる軍事的な知識をもった政治家が殆どいない。かつて石破茂氏は筆者に対して「自民党内にも、防衛は石破に丸投げすればいい、という風潮があるが、それは非常に危険だ。私が間違いを犯したら誰がそれを正すのだ」と語ったが、今でも状況は変わっていない。
民主党時代を含め、与党政治家が防衛大臣や政務官などになると防衛省の「ご説明」ですっかり洗脳されることが多い。それは軍事に対する根本的な知識が欠けているからだ。高邁な安全保障論は語れても、防衛官僚や制服組に騙されず、防衛省の予算に切り込む現実的な知識をもった政治家が殆どいないのだ。
確かに現在の文官優位のあり方は「官僚統制」で問題があるにせよ、制服組に対する一定のブレーキになってきたことも事実だ。例えば官製談合で潰れた陸自のOH-1をベースにするUH-X(時期多用途ヘリ)に関して、内局は計画が杜撰だとして3年間予算化を認めなかった(その後陸幕に押されて予算化され、官製談合が発覚)このような事案が今後発生しても政治にはチェック機能がないために、制服組の言い分がどんどん通るようになる可能性が高い。
今後文官優位がなくなった場合に、政治にその能力があるかというと全く期待できないだろう。そして自衛隊の幹部(将官・将校)の軍人としてのレベルは決して高くない。外国の専門誌を読むと「軍オタ」、と変人扱いされ、世界の軍事的な現実に背を向けて自衛隊内部の政治的な力学ばかりに感心をもった、軍事的に盲目的な人物ばかりが出世する傾向がある。
特に陸自にその傾向が顕著である。彼らを「専門家」と信じるのは極めて危険である。軍事に強い政治家を育てるのはメディアと、納税者の意識に掛かっている。防衛に強い政治家が育たなければいくら「文民統制」と念仏を唱えても実効性は期待できない。繰り返すが文民統制のキモは人事と予算である。この2つを政治が統制できなければ「文民統制」は成り立たない。
(このシリーズ全2回。この記事は、【日本の「文民統制」は「官僚統制」】~政治が軍を統制しない国、日本 1~の続きです)