まともな評価もしないでオスプレイ導入を政治決定した安倍政権〜兵器は子供の玩具ではない①
清谷信一(軍事ジャーナリスト)
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昨年に新「防衛の大綱」とそれにともなう「中期防衛力計画」(中期防)が大綱閣議決定された。この中期防は来年度から5年間の計画。米海兵隊も使用しているオスプレイを陸上自衛隊の航空部隊用に17機導入することが明記されている。だが、防衛省は来年度予算でオスプレイの評価用予算を1億円計上している。つまり、自衛隊に必要な装備かどうかを評価する前から調達が決定されている。
これはダムや原発の建設のためのアセスメントをする以前がから建設を決定するのと同じだ。かつての自民党の始めに建設ありきの利権誘導型の土建政策と酷似している。何かアメリカからの圧力か政治的な理由から仮に自衛隊で必要なくともオスプレイを調達する「オトナの理由」があるだろうと勘ぐられても仕方あるまい。
そもそも新型の航空機の評価を1億円程度の調査費ではまともにできない。可能であれば1機実機をリースし、パイロットを養成して評価を行う必要がある。時間もコストも掛かる話だ。ましてオスプレイはヘリコプターと固定翼機の両方の特性を併せ持つ極めて特殊な機体である。既存のヘリコプターや固定翼輸送機などの延長線上の評価はできない。
であれば、尚更な入念な事前調査が必要なはずだ。
オスプレイの機体特性、長所と欠点、またこれをどのように運用するのか、部隊はどういう編成にするのか、その調達コストと運用コストはどの程度かなども詳細に検討する必要がある。また極めて高価な機体であるので陸自の予算自体見直す必要がある。そもそも陸自が運用するほうがいいのか、それとも空自が運用する方がいいのかも検討する必要があったはずだ。しかも調達コストは極めて高い。オスプレイの機体サイズは陸自が保有する大型輸送ヘリ、CH-47チヌークと中型汎用ヘリUH-60ブラックホークの中間となる。
陸上自衛隊幕僚監部(陸幕)はオスプレイの調達単価を約120億円と見積もっている。これが17機だと2040億円となる。来年度は要求されていないので、新中期防中の4年間に導入するとなると毎年510億円の予算が必要となる。陸自のヘリの調達予算は概ね300~350億円程度でしかない。オスプレイを計画通りに導入するのであれば、ヘリ用予算は約2.5倍程度に膨れ上がる。一体何を削るのだろうか。
筆者は来年度予算のレクチャーのおりに防衛省に説明を求めたが「これから考える」という答だった。杜撰としか言いようがない。またオスプレイは極めて複雑なメカニズムを有しており、整備・維持コストはヘリよりも高い。果たしてその高い調達・維持運用コストを払っても得られるメリットがあるのだろうか。それも検討しないで導入が決定されたのだ。
オスプレイの調達・維持費が陸自の予算全体を圧迫する可能性は極めて高い。人件費は対して削減できないので他の装備調達の維持・修理費や訓練費、燃料費、あるいは需品類一般の調達などに支障がでる。つまり既存装備の稼働率や部隊の練度の大幅な低下が予想される。
実際陸自内でもオスプレイの導入には反対の声が多かった。必要な手続きやプロセスを無視して、子供が新しい玩具を欲しがるような形でオスプレイを導入し、万一事故でも起こった場合、安倍首相は政治責任をとる覚悟があるのだろうか。
オスプレイはいわゆるティルトローター機で、固定翼モードではヘリより遥かに高速で飛行でき、また航続距離も長い。ヘリモードを使用すればヘリコプターのように垂直に離着陸できる画期的な航空機である。概ね従来のヘリコプターと比べて2倍のスピード、3倍のペイロード、3〜5倍の航続範囲を飛行が可能である。ペイロードは24名の兵員、または貨物内部搭載が概ね4.5トン強である。兵士24名搭乗時の航続距離は600海里だ。
だがいいところばかりではない。欠点もある。米陸軍の航空隊トップだった将軍によると米陸軍がオスプレイを導入しなかった最大の理由は、飛行特性にあるそうだ。オスプレイが着陸する場合には固定翼モードからヘリモードに切り替えるが、ヘリと較べてかなり長い時間を掛けて徐々に高度を落としていく必要がある。また、その際には空中機動性能がヘリよりも劣り、ヘリのような急旋回やダイブなどといった機動ができない。
(UH-1にドアガンとして使用されているM2機銃。オスプレイはこのようなドアガンは装備できない。:著者撮影)
つまり、地上に敵がいるような競合エリアではオスプレイによるヘリボーン作戦を行えば、敵の対空砲火によって撃墜される可能性は極めて高くなる。さらに言えばオスプレイはヘリのように側面にドアガンを装備することができない。また、スタブウイングも無いので、これに機銃やロケット弾、ミサイルなどを搭載して地上を制圧することもできない。【②を読む】
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