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.政治  投稿日:2015/4/3

[清谷信一]【陸自ファーストエイド・キットが貧弱な件 2】~中谷防衛大臣の答弁に違和感~


清谷信一(軍事ジャーナリスト)

執筆記事プロフィールWebsiteTwitter

(この記事は【陸自ファーストエイド・キットが貧弱な件 1】~陸幕広報は取材拒否~ の続きです)

筆者はこの「個人衛生携行品」に関して3月31日の防衛大臣記者会見において、中谷防衛大臣に質問した。だが大臣の答弁に極めて大きな違和感があった。

以下に中谷大臣の答弁を引用しよう。
      タテ中谷元防衛大臣500

「私が現役だった頃は、そのような真空パックのようなものではなくて、数段進歩をしておりますし、中に入っているものも数が増えてきているというふうに思います。米軍の個人携帯と比較してみましても、1点だけ、眼球の保護具が入っていないというだけで、その他の用具は、ほぼ米陸軍並になってきております。また、海兵隊と比べればまだまだ不足したものがございますが、これにつきまして今、国外に派遣される隊員につきましては、その携行具に加えて、チェストシート、止血ガーゼ、人工呼吸用シート、手袋、はさみを装備した個人携行を予定しております」

まず「個人衛生携行品」国内用と米陸軍のキットの差が「1点だけ、眼球の保護具が入っていないというだけ」ではない。陸自の「個人衛生携行品」の国内用は先述のように、ポーチを除けば救急品袋、救急包帯、止血帯が各1個である。対して米陸軍の現用キットである。IFAK(Improved First Aid Kit)Ⅱの内容は以下のとおりだ。

・止血帯×2

・4インチ幅戦闘用包帯×1

・伸縮性ガーゼ包帯×1

・2インチ×6ヤード絆創膏×1

・経鼻エアウェイ×1

・胸腔減圧用脱気針×1

・消毒用アルコールパッド×2

・駆血帯×1

・静脈路確保用留置針×1

・留置針固定用テープ×1

・感染防止用手袋×1

・チェストシール×1

・被服やシートベルト等を裂く安全カッター×1

・負傷者記録カード×1

・アイカップ×1(怪我をした目を覆うカップ:損傷を受けた眼の上から包帯で圧迫してしまうと、眼球自体が腫れる圧力も加わり、更に眼球に損傷を与えてしまうため、カップで隙間を空ける)

アイカップ+米陸軍.jpg

以上となっている。どこがアイカップ以外同じなのだろうか。だれがどう見てもアイカップがないだけではない。仮に事務方の大臣への伝え方に問題があり、大臣が国内用と誤解しても同じだ。「個人衛生携行品」でより充実しているPKO用ですら以下のとおりだ。

・救急包帯×1

・止血帯×1

・人工呼吸用シート×1

・手袋×1

・ハサミ×1

・止血ガーゼ×1

・チェストシール×1

国外用ですら、米陸軍のIFAKII、その前の世代のIFAKにも遠く及ばない。大臣は事実と異なる説明を受けていたことになる。筆者は会見先日にどのような質問をするかは通告していたので、大臣は事前に陸幕広報あるいは広報を介して陸幕の衛生担当者による説明を受けているはずである。通常は内局広報から陸幕広報室を通して該当部署に照会がいくことが通例である。また以下の大臣と筆者の質疑応答があった。

中谷大臣「その比較は、国内用と国外用ということで、国外に派遣される場合は、その8項目が入ったものでございますが、国内用は、3種類ということですが、有事のときは、フルで装備をするというふうに聞いております」

筆者「例えば、急にフルで装備をしても、全く普段訓練をしていなければ使えないかと思うのですが、いかがでしょうか」

中谷大臣「そのものにおいて、現状、もう一回確認をいたしておきますが、訓練はしているということです」

つまり、有事に際しては国内の部隊に対してPKO用と同じセットが支給され、一般部隊でも平時からPKO用セットを使った訓練を行っているということだ。だが筆者が取材した限りそのような事実は存在しない。いざというときに使うならば、普段から備蓄が必要だが、筆者が取材した限りそのような事実はない。

幕僚長の命令を無視し、防衛大臣に虚偽の説明をしてまで松永健則陸幕広報室長、あるいは陸幕が守りたい「秘密」とは一体何なのだろうか。大臣は筆者に対して事実関係を調査し、書面で回答してくれること約束していただいたので、それを心待ちにしている。

また陸幕広報室は陸自という巨大組織の広報態勢の頂点にある。それがこのような傲岸不遜な態度をとるということは、陸自の各部隊や組織などの広報の態度にも影響を与えていても不思議はあるまい。

最近内局の優位がなくなり、内局と制服組が対等となることが決まったが、このような国民の知る権利をせせら笑うような「軍部」の暴走を見ると、安倍政権の決定が正しかったのか疑いたくなる。

タグ清谷信一

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