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.政治  投稿日:2023/6/22

日本巡航ミサイルは中国ロケット打ち上げ基地を狙う


文谷数重(軍事専門誌ライター)

【まとめ】

・ 日本の敵国攻撃能力は中国大後方攻撃に用いる。

・ 文昌や酒泉といった中国ロケット打上基地もその対象となる。

・ キレイな戦争で済むため最初期段階の攻撃目標に向く。

 

 日本政府は敵国攻撃能力の導入を進めている。当初は敵基地攻撃能力、今は反撃能力と称してトマホーク以下の調達を始めている。

 しかし、その目標は明らかではない。政府や防衛省は具体的目標を示していない。

 日本の巡航ミサイルは何を狙うのだろうか。

 その目標には中国のロケット打上基地も含まれる。なぜなら中国大後方攻撃での好目標だからである。具体的には攻撃破壊は容易であり、中国に戦力分散を強要でき、そのうえ戦争局限でも有利である。

▲写真:米原潜USSミシシッピにおけるトマホーク装填訓練。米海兵隊写真 2022年12月1日 *4

出典:Photo By:Marine Corps Lance Cpl. John Hall

 

■ ミサイルは何を狙うか

 日本は巡航ミサイルをどのように使うのか。

 それについては本サイトほかで述べたとおりである。

 なによりも中国の大後方攻撃に使う。戦時に中国に後方防衛を強要し対日正面への戦力集中を妨害する。その効果を期待して使う。

 敵軍隊の撃破は二の次である。世間体から日本政府や防衛省は軍隊そのものを目標にする雰囲気を出している。ただ、巡航ミサイルの威力では、さほどの効果は見込めない。それなら中国大後方攻撃に用いる。

 その目標はどこか。

 まずは海南島なかでも中国戦略原潜基地である。あるいは日本から最も遠い昆明ほかの大後方地域である。

 なお、これらの筆者の見立ては中国側の評価も得ている。専門誌でも長江鉄道橋攻撃等は妥当として肯定的に扱っている。(*3)

 この中国後方域の攻撃目標には中国各地のロケット打上基地も含まれるのではないか。

 なぜなら敵国攻撃では理想的な目標だからである。

▲写真:酒泉衛星発射センター(中国酒泉市・2021年10月16日)*1 

出典:Photo by Kevin Frayer/Getty Images

 

■ 攻撃容易

 第一には攻撃容易である。

 打上げ基地は簡単に破壊できる。準備段階にあるロケットや液体酸素、液体メタンのタンクは巡航ミサイル1発で破壊できる。それ以外の諸施設も破壊は難しくない。整備組立棟ほかも脆弱である。

 位置は明瞭であり疎開や防護はできない。重要器材は大きさや重量から移動や防空壕への収容はできず装甲化も難しい。技術的にはいずれも可能である。ただ高額につくうえ、なによりも打上作業に不便となるので選択はしない。

 日本にとっても攻撃可能な距離にある。導入が決まったトマホークにより海南島の文昌発射場は比較的容易に攻撃できる。四川省西昌や甘粛省酒泉もベンガル湾からミャンマー上空経由で攻撃は不可能ではない。

写真)護衛艦「さざなみ」*5 

出典)海上自衛隊第4護衛隊群

 

■ 対応強要

 第二は対応強要の見込みが高いことである。後方防備つまりは分散強要を期待できる。

 ロケット施設攻撃による心理的効果は大きい。

 中国指導部は等閑視しない。宇宙空間を自国に残されたフロンティアと見做している風がある。軍事的利益を危うくされることも含めて軍に対応を指示する。

 中国人民も衝撃を受ける。日本同様にロケットへの関心は深い。宇宙ロケットは所詮は1950年代の新技術にすぎない。ただ日中国民はいまだに先端分野と誤認している。その点で攻撃は重大事件となる。

 その人民による反応の矛先は指導部や軍部にも向く。日本攻撃への反感が基調となるが、それを許した戦争指導にも瑕疵を見つけるからである。

 これらの事情から解放軍は後方防衛を進めざるを得なくなる。指導部が重視する宇宙空間利用の確保や人民の人心安定にはそうせざるを得ない。

 つまりは分散強要を期待できる。打上基地の地点防空や後方域での全般防空、巡航ミサイルを発射する日本潜水艦への哨戒活動に力を割く。その分の中国軍事力は日本正面には指向できなくなるのである。

 

■ 戦争局限

 第三が戦争局限を期待できることである。

 ロケット打上基地の攻撃はエスカレーションを起こし難い。

 なによりも実被害は小さい。ロケットが破壊されるだけである。保安距離を設定しているので周辺住宅地に被害を与えない。当然だが飢餓やエネルギー不足のような深刻な被害は与えない。

 それからすれば拡大報復を引き起こす可能性は低い。

 中国の戦争指導にある人道主義からみてもそうなる。戦争において軍隊構成員以外には被害を与えない。民間人を苦しめない方針がある。

 まずは同等の打上基地攻撃程度で終わる。文字どおりの敵礼原則で種子島と内之浦を攻撃する程度にとどまるだろう。

 なお、日本にしても種子島への報復は深刻とはならない。民間被害や国民経済への影響はない。経済性もなく国威発揚だけで進めているロケット打上事業が打撃を受けるに過ぎない。

 

■ キレイな戦争

 ロケット打上基地は攻撃目標となる。その理由は以上のとおりである。

 付け加えるならば攻撃検討においては最初の候補となる目標である。

 なによりもキレイな戦争で済むので敷居は低い。互いに攻撃しても民間人被害は生じない。危険は攻撃側と防御側の軍隊構成員、戦争遂行努力に含まれるロケット関係者だけにしか及ばない。無辜を殺傷しない騎士道精神が理想とする戦争である。

 かろうじてだがゲームの範囲にも留まる。両国の指導部や軍部は本気にはならないで済む攻撃目標である。

 深刻さが低いと言い換えてもよい。少なくも長江鉄道橋や西気東輸管路道、戦略原潜基地攻撃と較べれば後生はよい。停戦や緊張緩和、将来の遺恨には繋がりにくいのである。

写真)中印戦争で、非難するインド人ら インド、1962年11月23日 *7 

出典)Photo by Express/Archive Photos/Getty Images

*1 ロケット打上基地は極めて脆弱である。その本尊である宇宙ロケットそのものは小銃どころか投石ですら破壊できる。巡航ミサイルさらには弾頭を外してその代わりに燃料タンクを入れた状態でも命中すれば完全破壊できる。

*2 例えば、文谷数重「海自潜水艦は海南島中国戦略原潜を狙う」『JAPAN INDEPTH』(2018年10月2日)

*3 専門誌も筆者の敵国攻撃の記事を取り上げている。楊震「韓日海洋安全戦略比較研究」『亜太安全与海洋研究』2023年2期(152号),pp.75-90.

*4 敵国攻撃能力の根幹は潜水艦となる。海南島中国戦略原潜基地への戦時攻撃、また平時の能力誇示が主体となる。それからすれば巡航ミサイルの主役はトマホークであり従来潜水艦にも搭載できるTTL、魚雷発射管発射型となる。

*5 米国や日本にとってベンガル湾からの中国大後方攻撃は魅力的である。ミャンマーの防空体制や中緬国境の中国防空網は貧弱であり攻撃経路としては最適だからである。

*6 防衛省は巡航ミサイル導入に際しては東シナ海対岸にある中国軍隊を攻撃する雰囲気を醸し出している。ただし、それは導入に際しての態度である。実際には中国大後方攻撃や平時における大後方攻撃能力の誇示に用いる。

*7 中国戦争指導は民間人被害の発生を嫌う。新中国以前の抗日戦争や解放戦争では敵性民間人でも丁重に扱っている。また戦争拡大にも抑制的である。中印紛争でも穏当対応でありインド侵攻後の解放軍による反撃でも圧勝後に自ら以前の対峙線まで後退している。

トップ写真:南カリフォルニアの海軍航空システム司令部(NAVAIR)西部試験場複合施設上空で制御飛行試験を実施するトマホーク・ブロックIV巡航ミサイル(カリフォルニア州チャイナ・レイク、2002年11月10日)*6 

出典:Stocktrek Images/GettyImages




この記事を書いた人
文谷数重軍事専門誌ライター

1973年埼玉県生まれ 1997年3月早大卒、海自一般幹部候補生として入隊。施設幹部として総監部、施設庁、統幕、C4SC等で周辺対策、NBC防護等に従事。2012年3月早大大学院修了(修士)、同4月退職。 現役当時から同人活動として海事系の評論を行う隅田金属を主催。退職後、軍事専門誌でライターとして活動。特に記事は新中国で評価され、TV等でも取り上げられているが、筆者に直接発注がないのが残念。

文谷数重

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