「採用すれど購入せず」護衛艦と国産対空ミサイル
文谷数重(軍事専門誌ライター)
【まとめ】
・海自は新型フリゲート整備の検討を進めている。
・新型艦は国産対空ミサイルをまずは搭載しない。
・米国製と比較すると難点が目立つからだ。
海自は新型フリゲート整備の検討を進めている。現在の「もがみ」級の後継となる護衛艦であり、2024年度予算での建造着手が予定されている。
そこでは「国産の対空ミサイルを搭載するのではないか」との観測がある。防衛省が艦対空誘導弾として開発した新型ミサイルを搭載するといった内容である。
はたして新型艦は国産ミサイルを搭載するのだろうか?
まずは搭載しない。あるいは開発側への義理立てから採用するかもしれない。ただ、その場合でも極少数購入であり搭載はまずはしない。採用しても購入せずの形で落着となるだろう。
■ 海上戦闘に最適化していない
なぜ新型フリゲートは国産対空ミサイルを搭載しないのか?
その理由は簡単である。
海自は国産対空ミサイルを望まないためである。米国製と比較すると難点が目立つ。具体的には海上戦闘への最適化、軍艦への搭載対応、将来改修の三つである。
それからすれば対空ミサイルは米国製を搭載する。すでに購入を始めたSM-6や入手目処が見えてきたESSMブロック2である。
写真)SM-6を発射するアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦 USS ジョン・ポール・ジョーンズ (DDG 53) 2014 年 6 月 19 日
SM-6による対艦攻撃は中国軍艦への切り札とされる。長射程と高速性能を生かした先制攻撃が可能だからである。
出典)Stocktrek Images/DGettyImages
第一に国産ミサイルは海上戦闘に最適化されていない。
まずは超低空迎撃に不安を抱えている。
軍艦用の対空ミサイルは海面ギリギリの目標を撃ち落とす必要がある。海面高度3m、最新型では1mの高さで飛んでくる対艦ミサイル。しかも直径30cmと小型の目標を迎撃できなければならない。
これは国産対空ミサイルには厳しい。原型は陸上防空用の03式中距離地対空誘導弾である。性質からすれば最低迎撃高度はまずは30m程度を目処としている。米国の海軍向けミサイルのように最初から5m以下の目標迎撃に力を注いではいない。その信管も米国製のように高度6mで確実に動作するかは怪しい。
写真)陸上自衛隊の「03式中距離地対空誘導弾」新型フリゲートには改良型を搭載するとの観測がある。
出典)陸自公式FLICKERアカウント JGSDFより。
また共同交戦や弾道弾迎撃の見込みもない。米国製のように近傍の味方艦や味方機が発見捕捉した目標に自艦の対空ミサイルを発射する機能はない。自分たちに向けて飛んでくる弾道ミサイルの迎撃もできない。
さらには艦船攻撃機能への配慮も欠ける。
軍艦の対空ミサイルは艦船攻撃にも利用する。
だが国産ミサイルに能力付与した話は聞かない。少なくともその機能を重視はしていない。
それからすれば視程内はともかく水平線以遠の攻撃は難しい。水平線超えの攻撃能力をもつ米国製のSM-6と較べると見劣りするのである。
写真)NSM(Naval Strike Missile)最新のNSM対艦ミサイルは高度1mの飛翔により海面乱反射や干渉縞効果、全反射による逃げ水現象やマルチパスを利用する。
出典)Photo by Ben Pruchnie/Getty Images
■ 軍艦への搭載対応
第二は軍艦搭載に最適化していない点である。
国産ミサイルは海自が主要とするMk41発射器との相性があまり良くない。その竪坑式発射器は53cm四方に作っている。対して国産ミサイルの直径が32センチと中途半端であり容積の無駄が大きい。
これも米国製に対する劣位となる。
直径53cmのSM-6と較べるとどうしても不利となる。容積不足から射程や威力、さらには誘導機構の容積で優位に立てない。
直径25cmのESSMブロック2には装填数で負ける。国産ミサイルよりも小径だが、それゆえに発射機の竪穴一つに4発を搭載できる。同じ坑数でもミサイル数で4倍の差がつくのである。
■ 将来改修を期待できない
第三は将来の改修を期待できない。
国産ミサイルは作って作りっぱなしとなる。時代の変化で性能不足となっても既存のミサイルの改修はしない。これは国産兵器に共通する対応である。
もし改修してしまうと防衛省開発部門や兵器産業は困る。長く使えるようになってしまう。それでは新型ミサイルの開発製造ができない。
対して米国製ミサイルは適宜の改修がなされる。米国は30年前に登場したミサイルでも改良を施す。場合によれば最新型状態に更新できる改修キットも登場する。
この点でも国産対空ミサイルは不利なのである。
■ 採用すれど購入せず
海自は国産ミサイルを買わない。そう判断できる。
20年前の前例もある。当時も海自は同様の問題を抱える国産対空ミサイルを蹴り米国製のESSMミサイル、今回挙げたブロック2の前のタイプを採用している。
それからすれば食指は動かさない。
ただし、今回に関しては対応だけはするかもしれない。
護衛艦への搭載は簡単かつ安価だからである。今回の国産対空ミサイルはアクティブ方式と呼ぶ誘導形式である。軍艦側の対応負担は軽い。
そうすれば義理は果たせる。不採用により防衛省の開発サイドや兵器産業の面子を潰さないで済む。
ただ、その場合でも購入はほとんどしない。買ってもいいことはない。だから最低数量しか買わない。
まずは採用すれど購入せずである。
これにもASM-1Cの先例がある。国産の空対艦ミサイルだが義理立ての少量購入でお茶を濁した。すでに本命の米国製ハープーンを購入していたためである。
写真)レッドリーフIII作戦演習中にハープーンミサイルを発射する原子力ミサイル巡洋艦ラドフォード(CGN-25) 1992年1月10日
ハープーン対艦ミサイルには改修キットの提供がある。それにより30年前に生産したミサイルも最新のブロック2仕様となる。
出典)Photo by © CORBIS/Corbis via Getty Images
やや事情は異なるが73式短魚雷も小規模導入で誤魔化した。作ったが性能不満足であった。またその時期には高性能の米国製MK46が購入可能となったためだ。先例となるかはともかく慣例とはなるだろう。
トップ写真:進水する「もがみ」級6番艦「あがの」。同級12隻までとし、以降は新型フリゲートに切り替える予定である。写真は海自HP「命名式・進水式」より。
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この記事を書いた人
文谷数重軍事専門誌ライター
1973年埼玉県生まれ 1997年3月早大卒、海自一般幹部候補生として入隊。施設幹部として総監部、施設庁、統幕、C4SC等で周辺対策、NBC防護等に従事。2012年3月早大大学院修了(修士)、同4月退職。 現役当時から同人活動として海事系の評論を行う隅田金属を主催。退職後、軍事専門誌でライターとして活動。特に記事は新中国で評価され、TV等でも取り上げられているが、筆者に直接発注がないのが残念。