【他宗教、他民族の国バングラデシュ】~世界の紛争を解決するヒントがそこにある~
久保田弘信(フォトジャーナリスト)
バングラデシュはベンガル人が9割を占める国。しかし、チッタゴン丘陵やコックスバザールを訪れると仏教形の少数民族やミャンマーからやってきたロヒンギャ族などをみかける。宗教も約9割がイスラム教で仏教やヒンドゥ教、キリスト教を合わせても全体の一割に満たない。全体の9割がベンガル人そしてイスラム教の国、それでもバングラデシュを訪れると他宗教、他民族の国という感覚を覚える。
9割がベンガル人そしてイスラム教徒、それなのに何故多民族、他宗教を感じるのか。そこにバングラデシュの面白さがある。国民の9割がイスラム教徒の国は国全体がイスラムっぽく感じられるものだが、バングラデシュでは仏教寺院やヒンドゥ寺院を見かける事も多い。チッタゴン丘陵のカグラチョリには日本の援助で建てられた仏教寺院がある。
コックスバザールに行けば仏教の水掛祭りや熱風船を揚げるお祭りを見る事ができる。
首都ダッカから4時間程北上した街マイメイシンではヒンドゥ教のお祭りプジャが見られる。街全体がヒンドゥ教になったように踊りと音楽で盛り上がる盛大なお祭りだ。この日にバングラデシュを訪れた人はバングラデシュがヒンドゥ教の国だと勘違いしてしまうのではないかと思う。
最終日には各地域ごとに泥で造られたヒンドゥの神々をブラマプトラ川に流し祭りの最高潮を迎える。その時、突然すべての音楽が鳴り止んだ。スピーカーから解説の声が聞こえる「イスラム教のお祈りの時間ですから、しばらく中断して静かにしましょう」と。
イスラム教では派手な音楽や踊りはタブーとされている。他の宗教がタブーとしているお祭りの中で、1日5回あるお祈りの時間を妨げてはよろしくないとお祭りを中断したのだ。お祭りはとってもオープンでヒンドゥ教でない我々日本人や地元のイスラム教の人達も参加して楽しむ事ができる。
プジャの祭典の後にはイスラム教のイード(犠牲祭)が行われる。首都ダッカ郊外の街ミルプールではイードの日、ヒンドゥ教では神聖な動物とされている牛の首が切られ、街中が血の匂いであふれかえる。
バングラデシュではブジャもイードもクリスマスも国の祝日となっている。バングラデシュは全体の1割しかいない他宗教、多民族に配慮がある。勿論、トラブルもあり、2012年にはコックスバザールの仏教寺院が焼き討ちされるような事件も起きている。
イスラム教がタブーとする音楽や踊り、そしてお酒を飲むヒンドゥ教徒、ヒンドゥ教が大切にする牛の首を切り食するイスラム教徒、それでもなんとか共存しているのがバングラデシュ。世界で起きている宗教間、民族間のトラブルを解決するヒントがバングラデシュにあるかもしれない。それはベンガル人が持つダワット(ご招待)の心かも。