[神津伸子]【もうピザ屋でバイトしなくていい!内定続々】~アスリートの就活・アスナビ~
神津伸子(ジャーナリスト・元産経新聞記者)
世の中の、新卒を控えた学生たちの活動が活発化しているが、もう1つの就活物語が、ここにある。女子W杯サッカー、リオ・平昌・東京五輪、ラグビーW杯など、ビッグスポーツイベントが、今後も目白押し。これらにまつわる様々なニュースも連日、報じられている。が、実際、そのレベルで世界と競うトップアスリートたちも、決して、集中して競技生活に打ち込めるという経済状態にあるとは限らない。
むしろ、スポーツを支援してきた多くの企業が、自社の福利厚生の一環として抱えていたスポーツ部を休廃部することが、ここ数年続いて来ている。安定を求めて、就活をしている選手たちは、実に多い。
選手の就活をサポートをしているのが、2010年から日本オリンピック委員会(JOC)がスタートさせたアスリートの就職支援システム、アスリート・ナビゲーション(略してアスナビ)だ。世界を目指すトップアスリートの生活環境を安定させ、競技を安心して続けられる環境を作るために、企業のサポートを望むトップアスリートを採用という形で支援してもらうためのマッチングである。
先月末に日本経済団体連合会(経団連)、今月18日には江東区文化センターで、各50社以上の企業を招いて、就職を希望するトップアスリートたちのプレゼンテーションが行われた。経団連のプレゼンに参加した女子アイスホッケー日本代表スマイルジャパンの藤本那奈選手は「私はゴールキーパーというポジションからも、チームを陰ながらしっかり支える存在になれるように心がけています。お世話になる企業でもチームワークを大切に、きれいな花を咲かせられるような、芯のある根になれるように頑張ります」と、語った。
採用企業を代表して全日空の人事担当者は「応援に行くことで職場の結束が固まる。今まで知らなかったアスリートの一面や競技そのものを知ることが出来、視野も広がる」など、採用のメリットを、説明した。
また、江東区の回に参加した女子7人制ラグビー日本代表サクラジャパンの桐蔭横浜大学4年生、中丸彩衣選手は「決めたことは、最後までしっかりやり通します。環境の変化への対応力があります」と、アピール。江東区の山崎孝明区長も「磨けば光る若い卵たちを、地域で育てていきたい」と、集まった50社の担当者に訴えた。採用企業側にも、上記の採用メリットだけではなく、恩恵がある。例えばソチ五輪が開催された昨年は、採用選手が五輪出場した場合は『トップアスリートサポート賞』が、贈呈された。
これらの活動を通して、今までに、47社、合計65人の就職実績を上げている。男子バレーボール、ビーチバレーボールで活躍した朝日健太郎氏などもこのシステムを活用して、正社員として活躍する。その中でも、群を抜いて採用実績が多いのが、女子アイスホッケー日本代表のメンバーだ。65人中15人を数え、今春も若きエース浮田瑠衣選手や藤本もえこ選手らが昭和大学に、小池詩織選手が日本製紙総合開発(株)に採用された。
彼女たちの人生を、大きく変える企業などへの内定が続々出だしたのは、ソチ五輪出場がターニングポイントとなった。それまでは、学生以外の多くの選手たちがピザ屋や居酒屋でアルバイトをしながら競技生活を送っていた。
「ソチ五輪出場と、先日の世界選手権トップディビジョンでの活躍など目覚ましい活躍を見せている彼女たちへの、われわれの関心は高い」(企業担当者)やはり、実績がものを言うようだ。
とはいえ、「いったい他の企業さんが、どんな経緯で選手たちを採用して、活用、援助しているかを聞いてみたくて足を運んでみたら、劇的な出会いをしてしまった」(太陽生命保険担当者)という、事例もあるので、今後も多くの企業の人事担当者に、アスナビのプレゼンテーションに足を運んで欲しいものだ。
トップ画像/世界選手権トップディビジョンの出場権を、負傷しながらも勝ち取った女子アイスホッケー日本代表スマイルジャパンの守護神・藤本那奈選手。今度は、正社員の地位を勝ち取りたい。