[神津伸子]【トップディビジョンへ!女子アイスホッケー】~日本代表・スマイルジャパン、11日運命の第3戦~
11月8日、女子アイスホッケー日本代表・スマイルジャパンが、世界選手権トップディビジョン(1部相当、3月開幕、スウェーデン)(注1)出場権を競う重要な試合が、新横浜スケートセンターで火蓋を切ってからずっと対戦相手のチェコに押し込まれていた。世界の上位8チームしか出場出来ない2018年、韓国ピョンチャン五輪出場権を大きく左右する一戦だ。試合は、自軍のディフェンスゾーンでの展開が続いた。
新守護神・藤本那菜は、大柄な相手が男子並みのパワーでガンガン打ち込んでいるシュートを、懸命に跳ね返す。冷静に「常に自分の仕事を、きっちりするだけですから」という藤本は、「何だか、みんなの様子が変。前日の公式練習では、最高の動きをしていたのに」と感じていた。
「久しぶりの国際試合に緊張感があった」と試合後には、冷静に分析する主将・大澤ちほも、ゲームのスタート時のチームが包まれていた異常な空気を認めた。足が動かない。スケートが出来ない。
流れを少しずつ引き戻したのはこの日、当たっていたゴーリー(ゴールキーパー)藤本と、(“当たる”という用語はアイスホッケーではゴーリーの調子が良く、好セーブを繰り返すことをいう)小柄なガッツのかたまりのフォワードプレーヤーだった。0-0で迎えた第2ピリオド、7分06秒を迎えていた。
最初に相手ゴールネットを揺らしたのは、日本代表の伏兵・寺島奈穂。右斜め45度から鋭く入った大型FW・浮田留衣からのパスを、ワンタッチで、勢いそのまま叩き込んだのだ。
その瞬間のスマイルジャパンの喜び様は、尋常ではなかった。何故なら、皆が寺島の無念のあの日を、知っていたからだった。
通常、彼女たちは得点をすると、集まってペコっと氷上の五人が集まってお辞儀をするパフォーマンスを見せる。しかし、この時ばかりは抱き合い、祝福し合う姿で、その輪も乱れた。重苦しい均衡ゲームからの脱出もあったが全員の喜びを倍増させたのには、こんな訳があった。
昨年、ほぼ同時期に行われた5カ国対抗(親睦試合)まで日本代表に帯同していた寺島は最後の最後に、ソチ五輪代表であるスマイルジャパンの選から、漏れたのだった。5カ国対抗前からすでに左膝じん帯の損傷で、「満足なプレイが出来ていなかった」(寺島)その前には、右足のじん帯も痛めていた。ベンチ入りから、外れることもしばしば。指揮官に最後のアピールをする機会すら、奪われていた。
数日後、その前監督からかかって来た運命の電話は、こう告げた。「怪我をしっかり治してもう一度ここに戻って来てくれ」自分のアイスホッケーが出来ていなかった。最終代表の中に、自分の名前を見出せなかった。様々な悔しさが、寺島の中で交錯していた。応援して来てくれた皆の顔が、次々と浮かんで来た。が、その涙は、あまりに重要な試合のあまりに貴重な一球に、姿を変えた。「今日は、絶対に決めてやる」とのぞんだゲームだった。
157cmの小さな体は、そのダイナミックな「力強いプレイ」(寺島)から 氷上では、実に大きく見える。セットを組む大柄で、チーム1のパワーの持ち主、168cmの浮田と見紛うほどの迫力を見せる。そう、問うと「ハイ!よく言われます」と、満面笑顔の23歳に、少女のあどけなさも戻った。
チームを勝利に導いた最高のシュートをチームメイト、スタッフ、全員がもろ手を挙げて喜んだ。が、一番、喜んでいたのは、運命の電話をかけたかつての指揮官、飯塚祐司・前監督だったのかもしれない。
(注1)ピョンチャン五輪の出場権は女子は8チームが得ることが出来る。世界ランク上位5チームは自動的に出場出来るシステムで、それ以下は世界最終予選に回る。ランクは2015、16年の世界選手権の結果によるポイントで決まるので、ポイントが高いトップディビジョンに入ることが、2018年の韓国ピョンチャン五輪への近道となる。その意味でも、11日の第3戦に勝って、トップディビジョン入りすることは大変重要な意味がある。
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