[神津伸子]【女子アイスホッケーの天国と地獄】~這い上がれ!新生スマイルジャパン、新たに始動~
日本のマスメディアのサッカー、プロ野球など人気スポーツへの報道の偏りは著しい。マイナースポーツは、決してメジャーになれないのか?
昨年、ソチ五輪を前に、代表を決めた女子アイスホッケー・日本代表“スマイルジャパン”は五輪まで、試合ごと、記者会見ごとに100数十名を越える報道陣が押しかけ、報道合戦が繰り広げられた。テレビ放映も、ドキュメンタリー番組のみならず、バラエティにまで選手が出演することもあった。
しかし、善戦したものの、勝つことが出来なかったオリンピックの後は、全く報道されることも無く、世界選手権に向けた“新生”スマイルジャパンの会見も、プロ野球ドラフト会議と重なったとはいえ、報道陣は20名ほどしか集まらなかった。又、全国紙で内容が報道されることはなく、東北・北海道ローカル紙で、パラパラと取り上げられたのみ。
このような現象は、アイスホッケーに限らず、国内ではプロ野球、サッカー以外ではいつも繰り返されている。
11月中旬に日本で世界選手権予選が行われる女子アイスホッケー。代表を1年半追い続けている。昨年2月に、どの競技よりも早く五輪出場権を得たスマイルジャパンの選手たちの生活は、帰国以後一変した。記者会見を開けばテレビ・キー局、全国紙はおろか、海外メディアも押しかけた。
(上写真) 昨年11月 新横浜スケートセンターで行われた5カ国対抗親睦試合には、マスメディアが殺到した。
何よりも、喜ばしかったのはアルバイトと競技生活を両立させなければいけなかった選手たちが、“アスナビ”を活用して、多くが正社員の地位を勝ち取り、安心して競技生活に取り組めるようになった。“アスナビ”とは、日本オリンピック委員会が、競技を安定させた環境の中で続けたい選手たちと企業のパイプ役となって、正社員のポジションを斡旋するシステム。
スマイルジャパンでも、平野由佳選手がローソンに、中村亜実選手がバンダイに、久保英恵選手が太陽生命にと、次々と他のスポーツを圧倒する勢いで採用されていった。
ところが、今年2月のソチ五輪でスマイルジャパンは善戦はしたものの、5戦全敗に終わった。とはいえ、開催国出場した1998年長野五輪の惨敗に比べたら、全ての試合で僅差と、世界のトップに肉薄する成長振りを見せた。が、その結果の重みはアイスホッケー関係者にしかわからないものでもあった。
「結果を出せなかった自分たちの責任ですから」スマイルジャパンのエースディフェンス、床亜矢可選手は重い口を開いた。去年ほぼ同時期に、同じ新横浜のリンクで開催された国際親善試合では、テレビ放映も入り、観客、マスコミも殺到したのだが、世界選手権予選の国内開催を控えた新チームのお披露目会見には、かつての5分の1ほどの報道陣が姿を見せただけだった。
しかし、6人のフレッシュなメンバーが加わった新チームは、全く五輪とは違う印象を私たち報道する者たちに与えて見せた。持ち味のスピードだけではなく「考えるホッケー」を、披露してくれるという。
不死鳥のごとく。「結果が全て、結果を出す」(スマイルジャパンのエース久保英恵選手)決意を新たに始動する様は実に潔く、雄々しい。チェコ戦から、すでに2018年韓国・ピョンチャン五輪への戦いは始まる。負けられない試合がここにある。前を見据える選手たちの姿だけがそこにあった。11月8、9、11日、新横浜スケートセンターで、熱戦の火蓋が切り落とされる。
*(記事トップ写真)10月23日 芝浦で行われた記者会見の模様。ガッツポーズも凛々しく。左から、久保、鈴木世奈(DF),床、藤澤新監督。
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