[渡辺真由子]初めて性的メディアに接した時期は小学5年生未満の現実〜メディアの性情報に踊らされる子どもたち
渡辺真由子(メディアジャーナリスト)
「初めて性的メディアに接した時期は小学5年生未満」。
こう答えた割合が男子も女子もトップだった。私が複数の大学の学生男女計141人を対象に実施した、性とメディアに関する調査結果である。
性的な内容を扱う雑誌や漫画、AV(アダルトビデオ)の氾濫に加え、近年はインターネットの普及により、青少年が性情報を目にする機会は増大している。親や学校がまともに教えてくれないぶん、メディアは「性の教科書」として重宝されている。うしたメディアの性情報は、青少年の性意識・性行動にどう反映されているのか。この問いを検証するための調査結果の概要を、今回から「現状」と「対策」の2度に分けて報告しよう。
性的メディアに初めて接したきっかけとしては「ネットで見た」や「自主規制のゆるい店で成人雑誌を購入」が多い。反面、「父親の通勤かばんから成人向けグラビア誌を発見。汚らわしいと思った」(男子)、「中1のとき、父親が家に隠しているAVを見つけ、友人と観賞会を開いた」(女子)などの声も。家庭が、子どもへの性情報の供給源になっている実態は見過ごせない。
では、このように子ども達がメディアから吸収した性情報は、彼ら彼女らに何らかの影響を及ぼすのだろうか。
A子(21)が初体験をしたのは高2の時。たいして好きでもない相手とだった。「ティーン雑誌の読者アンケートに、初体験年齢の1位が15歳と紹介されていました。そういう話を読むと焦るというか、私も早くエッチしなきゃいけないと思ったんです」
A男(21)は、合コンで知り合った女の子たちと一夜限りの関係を重ねる。ファッション誌のナンパ特集で、次々と女性を口説く男性の姿に憧れたのだという。「そこまで単発の関係を望んでいるわけではないのに、友達に自慢したいがために頑張っているところがありますね」
さらに深刻な事態も発生している。
B子(19)は、「映画のDVDを見よう」と言われて同級生の男子の家へ遊びに行ったところ、強引に迫られ性交された。「抵抗したけれど聞き入れてもらえず、仕方なく許しました。でも、全然幸せではありませんでした」。
顔見知りの相手による合意のない性交渉は、「デートDV」の1つである。今回、女子学生たちの口からデートDVの被害体験が次々と出てきたことに、衝撃を覚えた。
- 「嫌だといっても聞いてくれなくてとても不快だった。私の気持ちより自分の欲求が大事なのかと、幻滅した」
- 「寝ている時に無理やり迫られた。 泣いてもやめてくれない」
- 「ノーといっても本気のノーとは気づかず、エッチしようとしてきた」
- 「家にいたときに強引に誘われた。抵抗したが、無理やり手を押さえられた」
……。
こうした行為に身に覚えのあるB男(21) は言う。「彼女にノーと言われたとき、『これはいいのかな、行けるのかな』という考えが頭をよぎりました。雑誌に『女性が嫌がるのはポーズ』と書いてあったんですよ。AVだって、最初は女性が嫌がって、でも脱いだらそのうち乗り気になってくる、ってパターンが多いですから」。
またC男(22)は、「中高生の頃見ていたテレビで、『家で2人きりになったら、やらなきゃいけないっしょ』と、お笑いタレントたちがよく発言していたんですよ。そんなもんかな、と思ってました」と振り返る。
避妊に関してはどうか。男子へのアンケート(複数回答)によれば、避妊手段として「コンドーム」の利用者が88%と 1位だった。だが2位は、避妊効果はほぼないとされる「膣外射精」で、21%となっている。
- 「膣外射精は避妊の一種かと思っていました。周りにもそう信じているヤツは多い。AVでしょっちゅう、その場面出てくるし」
- 「アダルト動画を見ていてもコンドームを付ける場面はあまりないので、大丈夫と思ってしまう」
等の声が男子たちから寄せられた。
メディアの性情報を鵜呑みにしてしまう子どもたちがいることを、保護者や教師は把握しておくべきだ。
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【プロフィール】
渡辺真由子(わたなべ・まゆこ)
メディアジャーナリスト 慶応大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程を経て現在、慶応大学SFC研究所上席所員(訪問)。若者の「性」とメディアの関係を取材し、性教育へのメディア・リテラシー導入を提言。テレビ局報道記者時代、いじめ自殺と少年法改正に迫ったドキュメンタリー『少年調書』で日本民間放送連盟賞最優秀賞などを受賞。平成23年度文科省「ケータイモラルキャラバン隊」講師。平成25年度法務省「インターネットと人権シンポジウム」パネリスト。主な著書に『オトナのメディア・リテラシー』、『性情報リテラシー』、『大人が知らない ネットいじめの真実』など。