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.政治  投稿日:2015/9/5

[文谷数重]【太平洋で日本海軍力に対抗できぬ中国】~哨戒機が登場しなかった軍事パレード~


 文谷数重(軍事専門誌ライター)

執筆記事プロフィール

■中国軍事パレードで注目すべき点は何か

3日、中国メディアから「軍事パレードはどうでした?」と聞かれた。正直、兵器実物への興味が薄い。抽象化すれば同じものだ、程度の認識のため、軍事パレードにはあまり興味はない。

しかし、仕事になる可能性があれば別の話だ。そこでネットでの動画をみたのだが、あまり新味も面白味もない。実際に抗日70年に関しての報道をみても、新兵器について言及したものはない。その程度のパレードであった。

だが、一つ言えるのは「哨戒機と哨戒ヘリが出てこなかった」ことである。これは地味ではあるが、注目すべき内容である。

 

■ 哨戒機と哨戒ヘリが「出てこなかった」

社会主義国にとって軍事パレードは「見せたいものを見せる」行事だ。自国軍事力の進歩を示すことにより、自国発展を内外にアピールするためである。

そして今回は、海軍力を誇示する意図がみられた。例えば空母搭載用の早期警戒機を2種、着艦停止時に使うフックを誇示した空母用戦闘機のJ-15、米艦隊への長距離攻撃を可能にするH-6K、丁寧にもキャニスターにDF-21を白書した対艦弾道弾DF-21がそれだ。

これは、今日の中国は他国の海軍力に蹂躙されないことを示すものでもある。近世以降、中国は英・日・米と海軍力にいいようにされた歴史がある。清も民国も海軍力により国土を蚕食され、侵略された。だが、新中国は他国の侮りを跳ね返す海軍力を建設した。そのことを誇る発想である。

だが、そこに哨戒機と哨戒ヘリはない。筆者の怪しい語学力での聞き取りであるが、外洋で使う固定翼哨戒機と艦載型哨戒ヘリはなく、実際に機内ショットもなかった。

両者は海軍力を展示するなら、本来は含まなければならないものだ。それがないと外洋での海軍作戦、特に日米との対峙は不可能であるためだ。艦隊を出すためには、まず哨戒機で哨戒圏を作りその範囲で行動させるのがセオリーである。また、水上艦隊は常に哨戒ヘリを艦隊上空に上げる必要がある。水平線外の状況がわからず、ただでさえ怖い潜水艦の動静も全く掴めない。だが、それが上空飛行に含まれなかったことは、注目すべきなのである。

■ 数が足りないか、中央の認識不足か

実際には「見せたいが見せられなかった」のだろう。推測される理由としては次の2つである。

まずは、数が揃わないといった問題点である。

哨戒機は、パレードに出せるまでの数がない。本格哨戒機と目されるY-8Q(高進6号)は現状では2機と言われている。そこから「予備機を揃えられないので出すに出せない」あるいは「パレードに出すと長期拘束され、開発が大幅遅延する」といった理由が考えられる。

艦載ヘリも、哨戒ヘリコプターは単純に数が足りないので出せない。フランス系の機体に独自装備を施した国産Z-9Cは11機、ロシアから購入したKa-28は6機しかない。南シナ海等での実働艦隊への搭載所要が優先し、余裕が無いと見ることもできる

また、党や軍中央がその価値を理解できないといった可能性もある。「外見上で地味であり、攻撃力としても強力ではない」ために出さないといったものだ。人民解放軍はArmyと言われるようにまず陸軍があり、そこに海軍部が所属している。また人事もそのようになっており、海軍が重要だと主張しても参加枠がもらえなかったかもしれない。

■ 揃えられなければ、日米に対抗できない

あるいは、両方とも正解かもしれない。実際にどちらも数を揃えられないことは、党や軍中央の理解が得られないためであるとも判断できるためだ。

海軍力として派手な空母は戦力整備として理解されやすい。しかも日華事変や国共内戦、台湾危機で民国、新中国を圧倒された経験がある。だから新中国も空母を持たなければならないといった意見は賛同を得やすい。

だが、実用上必須の哨戒機や哨戒ヘリは高額である上、強力に見えないため理解は得にくい。おそらくY-8QはJ-15の二倍程度の価格であり、哨戒ヘリもJ-15と同価格はするだろう。しかし、外見は輸送機と通常のヘリであり、低速でしか飛べず、これといった攻撃武器も持たない。

しかし、それがなければ中国は日米に対抗できない。外洋での海軍作戦にはそれがなければどうしようもないためだ。空母や長距離爆撃機、対艦弾道弾を持っていても、哨戒機で相手の艦隊の位置がわからなければ無意味であるし、艦載ヘリで艦隊付近の対潜警戒をしなければ不安でなにもできないためだ。

実際に海軍国であり、太平洋を主戦場と考える日米はこれらを大量配備している。日本は哨戒機を80機運用し、哨戒ヘリを85機保有している。米国は哨戒機130機を運用し、別に大量の保管機も持っている。哨戒ヘリについても現状で210機を運用しており、1世代前の機体も多数保管している。

今回の軍事パレードで哨戒機・哨戒ヘリが「出てこなかった」ことは、中国海軍はこれら問題を早期解決できないことを示唆するものでもあるということだ。つまり、外洋海軍力を拡大する上で乗り越えるハードルは相当に高く、海軍は乗り越えるための協力も得られにくいのではないかと推測できるのである。

中国は艦艇数で日米に追いつこうとし、特に日本には優位に立ちつつある。だが、哨戒戦力が足りない点は絶望的な質的劣位である。このため、今後しばらくも太平洋では日本海軍力に対抗はできないのである。


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