[大平雅美]伝統工芸の後継者を育てる“ネットのチカラ”〜女性の感性と特性が活きる「日本の色」伝統技術の現場
大平雅美(アナウンサー/大正大学客員准教授)
お正月は日本の美しい色彩が引き立つ季節。ここではカラーマーケティングの視点から、COOL JAPANを意識しつつ社会現象や流行、製品情報、エンターティンメントなどを取り上げたいと思います。
今年は午年。干支の縁起物にあやかろうと、浅草仲見世通り横にある皮革伝統工芸“文庫革”の専門店、文庫屋「大関」は大勢の客で混雑していました。文庫革とは、播州姫路の産物で姫路革とも呼ばれ、江戸時代から続く独特な手の込んだ製法で仕上げた工芸品。その伝統技術を受け継ぎ、東京の下町で90年近く財布や小物などを作り続けているのがこの店。
文庫革の製品は、繊細で豊かな日本独特の色彩と着物の柄を感じさせる意匠が魅力、丁寧な手作りですが価格は1、2万円前後のものが主流です。ただ少量の生産しかできず品切れになることも多いとか。代表で店主の田中威さんに、私は恐る恐る尋ねてみました。
「職人の後継者はいらっしゃるのですか?」
すると、想像したとは違う明るい声が店内に響きました。
「ええ、いるんです。ネットでうちの商品を見た女性が自分でも作りたいと弟子入りして、20~40歳代の女性がたくさん修行にきて、今は工房と外注合わせて18人もいるんです。」
聞けば、数ある工程のなかで女性が最も活躍するのが色彩の識別と彩色。文庫革の彩色は一筆一筆の手作業で、すべては職人の感覚で作り出されます。
小さいお皿の中で数千の色のバリエーションが生まれますが、そこにレシピはありません。
したがって過去の色を作り出すには人間の目の識別力だけが頼り。誰がやっても同じ色が出せる機械やCGではなく、人の温かみのなかで混色されていくのです。
田中さん曰く、
「他の工程は男性がいるのですが、色に関してはなぜか女性がほとんどになってしまいました」
革に塗れる塗料が年々少なくなり、現在は白・黒を含めた8色で幾多の色を作り出す。気が遠くなるような作業ですが、
「根気のいる仕事だから色の識別と合わせて、女性に向いていると思う」
田中さんは後継者に恵まれたのはネットの力だと言います。ネットは商品を売るだけではなかった。ネットを通じて、伝統工芸の魅力が拡散され、魅了された人達が伝統工芸の作り手、担い手となる・・・。女性ならではの感性や特性を生かせる現場は、開かれた伝統工芸のなかにまだまだ沢山あると思います。
(江戸時代からの技術で作られる色と柄) (伝統柄に加え現代風のデザインも!)
美しい日本の感性は配色が得意な日本人の色彩感覚にあります。COOL JAPANは、日本の感性を形にして発信すること。「色彩」は最も貢献できるツールの一つではないでしょうか。
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