[清谷信一]【納税者も驚愕、陸自衛生学校体育館狂騒曲 その4】~「謝礼は互助会等から支出】の不思議~
清谷信一(軍事ジャーナリスト)
こうした集金に伴う金銭トラブルの事件が相次いだことから、隊員の自発的な参加による互助会的な資金の運用について厳しく管理されるようになった。この回答で言う互助会等とは、正規の手続きにより設立された、参加する隊員に規約が文書で説明され、然るべき管理がなされている組織なのだろうか。この互助会等の設立の承認は誰がしたのだろうか。隊員に個人のお金を出させる上で、任意の入会および出資と謳っているものの、実際は半強制ではなかったのか。任意といっても上司から払うように勧められれば断ることは難しい。パワハラの疑いを持たれても仕方あるまい。
実際自衛隊では2つの生命保険会社の保険に加入することを部隊長から勧められるが、例えば連隊長から「君なぜこの保険に入らないの?」と問われて、断れる隊員がどれだけいるだろうか。この2つの保険会社が将官の天下り先であることは言うまでもない。
本来自衛隊が払うべき謝礼なのにそのギャラは、「自衛隊中央病院長の娘」に互助会等で「集金」された金が「有志の善意」として支払われたわけだ。常識的に考えて不自然だろう。
全国にある互助会的な組織として、幹部による「修親会」、陸曹による「曹友会」があり、機関紙まで発行しているものがあるが、課業中に互助会としての活動をすることが無いよう、国費を用いる「課業」とこれらの「活動」は区分されているはずである。
回答に「謝礼に関しては、互助会等が支出していることから、金額、名目及び領収書について我々としては回答できません。謝礼に対する源泉徴収は、国費を使用していないため、我々としては回答できません。」とあるが、互助会的なお金を用いる行事、または一部の金額を充当する行事を課業中に行うことは許されるのだろうか。
もし、そうであれば、隊員の自発的な集金により、勤務時間に何をしてもいいし、そのことについて何も開示しなくてもいいことになる。互助会が払おうと、公的な儀式に民間人のプロの演奏者を呼び、その謝礼を払ったのだ。やましいカネでないならば、陸幕は互助会にその明細の開示を何故要求できないのか。これまた陸幕の回答が怪しいと思える理由の一つだ。
国民から武器を運用することを任されている組織として、このような不明朗なカネの流れは大変危険なことではないか。外部からあらぬ疑いを受けぬように、また規律の維持のために指揮系統に従って計画と命令を根拠として、勤務時間中に国費を用いて行事を行なうのであって、その会計記録についても開示することとなっている。衛生学校は互助会の謝礼支払いについてもその明細を明らかにする責任があるはずだ。
石川元校長は自らの趣味のバイオリンを大観衆の目前でプロと共演して腕前を披露したかったのではないか。そしてその相手は自衛隊中央病院のご令嬢で、同時に上位者で影響力がある中央病院長のご機嫌も取り結べる。そのような自分の願望を、自己の権力を使って公の組織に強要したのではないか。少なくともそのように批判されても仕方あるまい。どうしても人前で演奏したかったならば、組織を利用せずに自分で、ホールでも借りきって行うべきだろう。
繰り返すが単に体育館落成を祝うためのコンサートであれば、東部方面音楽隊だけで何の不足があったのか。バイオリンをフィーチャーする必然性は全く無い。「華やかなコンサートの主役」が必要というのであれば、陸自の音楽隊にもソプラノ歌手がいるではないか(それはそれで失礼な話だが)。
陸幕広報室は石川前校長の招へいの件に関して以下のように回答している。
「前衛生学校長とバイオリニストの共演は、前衛生学校長が計画したものではなく、現衛生学校長が落成式を盛況に行うため、共演を依頼したものです 。よって、ご指摘の『自分で、自分の功績たたえて自身を招へいした』という 事実はありません。
『バイオリンをフィーチャーする必然性』については、 ご指摘の通り社会通念上、体育館の落成式の実施要領が不適切であったのはないかと疑念を抱かせたことについて、そのような疑念を抱かれないよう、今後厳正に隊務の運営に取り組んで参りたいと考えます」
だが関係者への取材では、このコンサートは石川元校長が現役時代の時に既に企画されていたと確証している。体育館の完成予定は当初は石川元校長の在任中であり、工期の遅れから退職後になっただけではないか。本来体育館の工事が6月には終了している予定だった。
そもそも石川前校長の退任は、通常の人事よりも1ヶ月早く、職務態度に不満を持った陸自上層部の判断である「更迭」であると噂されている。そうでなければわざわざ定期人事からずらして、退官を一ヶ月だけ早める必要はない。自衛隊の人事について知っているものなら誰もが前倒しの退職を不審に思っただろう。
松木現校長の着任は8月4日である。8月には隊員たちも夏季休暇をとる。当然コンサート関連の業務も遅滞する。新校長は着任後引き継ぎも忙しかったはずだ。果たしてそのような「思いつき」を部下に指示して実現させる時間的な余裕があったのか。実務的にも、東部方面音楽隊とバイオリニスト、伴奏者との曲の選定や調整なども必要だ。演奏者は曲目の練習時間も必要だ。主催者側はポスターを作ったり、各方面への告知期間も必要だ。実際にコンサート当日までの期間は1ヶ月強程度だろう。
筆者はかつて広告業界にいた時代に音楽関連のイベントにも関わっていたことがあるが、そのような短時間にこれらの作業をすすめることはありえない。このような状態で本来不要な前校長のサプライズ演奏をわざわざ松木新校長が発案し、組み込んだというのだろうか。
筆者はプログラムの決定及び、関係者などの打ち合わせの時期は松木校長の着任以前であるという証言や証拠も入手している。陸幕や衛生学校が強弁するならば、証拠を提示する用意がある。
(この記事は、【納税者も驚愕、陸自衛生学校体育館狂騒曲 その3】~浮世離れ?「衛生」総本山で疑惑のコンサート~ の続き。
【納税者も驚愕、陸自衛生学校体育館狂騒曲 その5】~「コンサートごっこ」をしている場合ではない~ に続く。
本シリーズ全5回)
トップ画像: 記念盾を受け取る石川卓志元衛生学校長と、渡す現衛生学校副校長 ©清谷信一