あり得ないミス、甘利氏スキャンダル~自民党劣化の象徴か~
山田厚俊(ジャーナリスト)
「山田厚俊の永田町ミザルイワザルキカザル」
「寂しいね。こんなベテラン議員があり得ないミスを犯すとは……」
引退して久しい自民党の元秘書は、こうため息をつく。彼は重要閣僚を何度も務めた議員の秘書。政治の表も裏も知り尽くしているご仁だ。その彼があきれるのは、甘利明経済再生担当相のスキャンダル。
『週刊文春』が1月28日号で「実名告発『甘利明大臣事務所に賄賂1200万円を渡した』」とスクープした。もちろん、あってはならないあっ旋収賄。しかし、自民党の歴史からすれば、似たようなケースは以前もあったという。
「その場合、議員は相手に挨拶だけして、後は秘書と相手とのやり取りにするのが通例。いざというとき、議員に火の粉が降りかからないようにするのが常。なぜ、甘利氏は同席したのか」
元秘書からすれば、そんな疑問が持ち上がるという。政治家の仕事を理解しない1、2年生ならともかく、甘利氏ほどの経験を持つ者がこのようなことをすること自体、自民党の劣化を象徴していると指摘するのだ。
甘利氏は神奈川13区選出の衆院議員で、当選11回。1998年、小渕恵三内閣時、労働相で初入閣以降、2008年の福田康夫内閣で経産相、その後の第1次安倍政権でも経産相を務めるなど、実績を積んできた。2012年の自民党総裁選では、菅義偉氏(現官房長官)とともに安倍晋三氏(現首相)の出馬を強く働きかけ、政権交代後の第2次安倍政権では経済再生担当相に就任し、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)締結に向け尽力してきた。
事実なら即閣僚辞任。いや、議員辞職さえ、あり得る話。甘利氏は1月25日の週に自ら記者会見して調査結果を発表する考えだとし、それによって進退もはっきりしてくるという。 「自民党とすれば、2月4日にシンガポールで行われるTPPの署名式には甘利氏を行かせる腹づもり。辞任はそれ以降になるでしょう」(永田町関係者)
政治不信が続くなか、またしても吹き出たスキャンダル。これまでは秘書が全面的に“罪”を背負って済んでいたかもしれないが、今の時代は到底許されるわけはない。野党もしっかり追及し、事実を詳らかにすべき。波乱の年と呼ばれる丙申、参院選の前に早くも大波が押し寄せた感がある。
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この記事を書いた人
山田厚俊ジャーナリスト
1961年、栃木県生れ。東京工芸大学短期大学部卒業後、建設業界紙、タウン紙の記者を経て95年4月、元大阪読売社会部長の黒田清氏が代表を務める「黒田ジャーナル」に入社。阪神・淡路大震災の取材に加わる。震災取材後、事務所から出向する形でテレビ制作に携わる。黒田氏死去後、大谷昭宏事務所に転籍。2002年から週刊誌で活動を始める。2009年2月、大谷昭宏事務所を退社。フリー活動を開始。週刊誌をはじめ、ビジネス誌、月刊誌で執筆活動中。