「パナマ文書」スキャンダルの衝撃
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
「宮家邦彦の外交・安保カレンダー(2016年4月4日-10日)
先週末、パナマで大爆発が起きた。爆発といっても自爆テロではない。恐らく犠牲者の大半は世界の大金持ちや犯罪人となるだろう。タックスヘイブンで有名なパナマのMossack Fonsecaなる法律事務所から膨大な顧客リストや資料が流出したのだ。
流出資料は1150万件以上、数十万人分の詳細な顧客資料は過去39年分に上るという。パナマで節税すること自体は合法なのだろうが、もしこれにマネーロンダリングや汚職・脱税などを含む犯罪行為が絡めば、各国の司法当局も黙ってはいまい。
現時点でも、関係者の中にはプーチン大統領の側近、キャメロン首相の父親に始まり、ブラジルの政治家、パキスタン首相の親族、FIFAの倫理委員会関係者などが含まれると報じられている。このパナマペーパー、逃げ遅れるのは一体誰だろうか。日米中の関係者はいるのだろうか。実に興味深い。
○欧州・ロシア
欧州ではイースター明けで漸く仕事が再開される。4日にはギリシャの債務問題が議論され、EU・トルコ間の難民送還合意が実施される。だが、理由はどうであれ、一度EU内に入った難民が再びトルコに戻されるのだ。彼らの絶望を思うと胸が痛くなる。
〇東アジア・大洋州
4日から15日まで、豪比米が合同軍事訓練を行い、日本の海上自衛隊やベトナム海軍もオブザーバー参加する。指揮管理系統、通信、後方支援だけでなく、占領された海上石油・ガス掘削施設の奪還や海岸への上陸作戦の訓練も実施されるそうだ。 これだけ役者が揃えば、同演習に対し中国が神経質になるのも当然だ。
5日からウクライナ首相が訪日するが、日本のできることは限られているだろう。他方、10-11日にはG7外相会談が広島で開かれる。漸くこのような舞台回しが可能になったのかと思うと、感慨深い。これも時代の流れということか。
〇中東・アフリカ
3日、アゼルバイジャン国内の飛び地ナゴルノ・カラバフ自治州で、アゼルバイジャン軍と同自治州に駐留するアルメニア軍が衝突した。最近までナゴルノ・カラバフは静かだったのだが・・・。4日にはアゼルバイジャンが停戦を宣言したものの、問題の根本的解決は難しいだろう。
一方、3日、イランが原油を増産し輸出量は200万b/dを超えたことが明らかになったそうだ。これでは原油市場のグラット(供給過剰)は当分続くに違いない。サウジアラビアはそれが分かっていたからこそ、減産しなかったのだろう。
○アメリカ両大陸
トランプの日韓「核武装」発言には驚いたが、彼はNATOやサウジアラビアに対しても費用負担を求めており、その意味では(間違ってはいるが)発言内容には一貫性がある。
自らの発言がどれほど米国の国益を害しているか理解すらしていない大統領候補についてコメントするのは気が進まない。最近トランプの勢いに翳りが見えてきたような気もするが、それはまだ希望的観測かもしれない。トランプ旋風を過小評価するのはまだ早い。
〇インド亜大陸
7-8日に米国防省の取得担当次官が、続いて10-12日にカーター国防長官がそれぞれ訪印する。今週はこのくらいにしておこう。
いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
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この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表
1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。
2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。
2006年立命館大学客員教授。
2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。
2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)
言語:英語、中国語、アラビア語。
特技:サックス、ベースギター。
趣味:バンド活動。
各種メディアで評論活動。