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.国際  投稿日:2016/4/20

大統領選、DCで見る米国の闇


 宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の外交・安保カレンダー(2016年4月18日-24日)

今週の原稿は18日深夜ワシントンのホテルで書いている。時差で掲載が半日遅れたことをお詫びする。米国出張は今年既に三度目だが、今回はキヤノングローバル戦略研究所と米有力シンクタンク・スティムソンセンターが共催するシンポジウムに参加するので、従来の出張とはちょっと趣が異なる。

 今回久し振りにワシントン特別区のSE(サウスイースト、南東)のレストランで米議会の補佐官連中と夕食を食べた。当地には港が少なくとも二つある。一つは有名なジョージタウン・ハーバー、もう一つがSEのウォーターフロント地区なのだが、一昔前ならSEで夕食をとるなんて考えられなかった。

外務省研修時代の35年前は勿論のこと、ワシントン在勤時代の25年前だって、SEはアフリカ系貧困層が住む恐ろしい所。水辺のごく一部を除いては、ほとんど立ち寄ることのない場所だった。そこが今や小綺麗なレストラン街に変身し、周辺には多くの高層住宅まで建っている。昔ならおよそ考えられない光景だ。

今回痛感したのは、過去30年間ワシントンで最も拡大したのがIT産業でも、金融業でもなく、「政治」産業だったということ。昔はアフリカ系貧困層しか住まなかったSE地区は今や白人が移り住み繁栄する。逆に言えば、昔の貧困層住人は更に遠隔地にしか住めない。ここでも貧富の格差は拡大しているのだ。

以前トランプの支持者の中心に白人・男性・ブルーカラー・低学歴層がいると書いた。だが、彼らだけでなく、アフリカ系の脱落組も同様に「怒っている」に違いないと直感した。その怒りの矛先は米国の「光」である首都ワシントンだが、このワシントンの内部にも「影」は存在するのだ。

トランプを支持する米国の「ダークサイド」には、以前ここに住んでいたアフリカ系も含まれるのだろう。そうだとしたら、米国社会の闇は想像以上に深いと言わざるを得ない。但し、今回会った米国の友人たちにそうした危機感は殆ど感じられなかった。彼らも「光」の一部なのだろう。

欧州・ロシア 

今週の欧州は忙しい。18日にはリビアに関する首脳会議と仏大統領のエジプト訪問がある。20日にはNATO・ロシア対話、21日には欧州中央銀行の理事会、22日はユーロ圏のギリシャ問題会合、23日にはEU首脳のトルコ訪問、22日からはオバマ大統領が訪英・訪欧、24日にハノーバーでEU首脳と経済問題について話し合う。

〇東アジア・大洋州

17日から米国務副長官が日本、韓国、ベトナム、インドネシアを歴訪し、19日には北朝鮮問題で日米韓協議も行う。しかし、何といっても今週のハイライトは24日の北海道と京都の衆議院補欠選挙だろう。結果次第ではダブル選挙が不可能になるとも報じられるが、どうなるだろうか。

〇中東・アフリカ

18日にイエメンの和平会議をクウェイトが主催する。21日、イスラエル首相が訪露するが、同日オバマ大統領はサウジを訪問しGCCと首脳会議を行う。何とも象徴的な日程ではないか。

アメリカ両大陸

今週は19日の大統領選ニューヨーク予備選でトランプが過半数を制するかがポイントになる。もし勝者総取りでトランプが同州の代議員95人全員を獲得すれば、また先が読めなくなるかもしれない。ワシントンに着いてからの短時間でも友人たちの読みは猫の目のように変わる。彼らにとっては「生きるか死ぬか」の瀬戸際なのだろう。

〇インド亜大陸

18日からインドの国防相が、20日にはインドのNSC補佐官がそれぞれ訪中する。中国とインドはかなり頻繁に意見交換を行っているようだ。更に、18-19日には、印中露の外交当局高官が三極会合を行う。

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。


この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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