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.政治  投稿日:2024/7/11

安倍晋三氏の国際的実績とは(下)アメリカはなぜ彼を賞賛したのか


古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・安倍氏が成立させた「特定秘密保護法」や「平和安全法制」は米側で評価された。

・トランプ氏は安倍氏の主唱した「インド太平洋構想」での中国抑止という新政策に同調した。

・アメリカとの関係を緊密にし、信頼をも深めた安倍氏の実績は、日本国民にとって歴史的貢献といえる。

《安倍氏をアメリカ側に説明する》 

 私はこの時期、ニューヨーク・タイムズから依頼され、安倍晋三という人物の素顔についての記事を寄稿した。2006年9月末、彼が初の首相になって、ほんの数週間後の時期だった。

 その寄稿記事において私は、安倍氏が民主主義を信奉しアメリカとの同盟関係を支持するのが、日本の主権や独自性を重視する健全な、国際的には通常の政治指導者だ、という主旨を書いた。

 当時のニューヨーク・タイムズとしては安倍新首相のネガティブな面ばかりが報じられることへのバランスいう意味をこめ、安倍氏のポジティブな面に光を当てる意見をも紹介したいという意図だったようだ。

 安倍氏は一期目の首相ポストを体調を崩して、わずか1年で降板した。2007年9月だった。2012年12月には首相に再任され、翌年12月には首相として靖国神社に参拝した。中国が激しく非難した。アメリカでも時のオバマ政権が「失望」という異例の批判をこめた声明を出し、米側の左派系の安倍非難を短期間とはいえ再燃させた。

 《アメリカでの安倍支持の拡大》

 米側でも以上のような非難の一方、安倍氏の政治信条は正常な主権国家として自然かつ健全であり、アメリカにとっても有益だとする識者が増えてきた。とくに安倍氏の在野時代、時の米側の共和党第二次ブッシュ政権の要人を主体とする識者たちがその傾向を推進した。

 安倍首相が成立させた「特定秘密保護法」や「平和安全法制」も日本の主権国家としてのそれまでの欠陥を補うだけでなく、日米同盟の強化という点で米側にとってもプラスだという評価が、その種の米側識者の間で広まっていった。その結果は安倍晋三首相への信頼となった。

 この時期の米側での安倍氏支持の主体は第二次ブッシュ政権でのリチャード・チェイニー副大統領、ロナルド・ラムズフェルド国防長官、ルイス・リビー大統領補佐官、民間ではジョージタウン大学のドーク教授、バンダービルト大学のジェームズ・アワー教授など、保守派での影響力の大きい人物たちだった。

 安倍首相の2015年4月のアメリカ議会上下両院合同会議での主要演説も米側一般の信頼を高めるうえで大きな効果があった。当時のオバマ政権も、民主党リベラル派議員たちも、こぞって賞賛の声を述べた。安倍氏が日米戦争へのことさらの謝罪はせず、両国にとっての悲劇として反省や追悼の意を述べるという姿勢が米側にも好感を生んだといえる。

 《トランプ政権下の日米緊密時代》

 2017年1月に登場したドナルド・トランプ氏は安倍氏を政権の冒頭から信頼し、敬意を表した。安倍氏の主唱した「インド太平洋構想」での中国抑止という新政策に同調した。その背景にはこの時期のアメリカには超党派の安倍晋三支持という基盤が築かれていたのだ。

 安倍氏が唱えた「積極的平和主義」の防衛政策も米側からは日米同盟増強への大きな前進として歓迎された。それまでの「日本の平和主義」というのは単に無抵抗主義という要素ばかりであり、日米同盟には障害となる認識が米側では強かったのだ。

 かつての慰安婦問題などでの激しい糾弾から超党派の安全保障政策などでの賞賛へ——安倍氏がアメリカの態度を逆転させた歴史の大ドラマ的な変遷は本人の資質、努力、表現力などの賜物として日本の外交の軌跡でも特筆されるべき出来事だった。

 《安倍氏の死を悼むアメリカ》

  2022年7月8日の安倍氏の暗殺はアメリカでは日本以上に悼まれたといっても過言ではない。大統領命令により、すべての政府施設、すべての海上に浮かぶ艦艇を含めての軍事施設に安倍首相の死を追悼する星条旗の半旗が掲げられたのだ。

 大統領、議会両院が公式の丁重な弔意文を発表した。民間でも各界からの弔意が表明された。日本のように暗殺者の動機に光を当てるという反応は皆無であり、だれもがこの政治暴力を非難していたのだ。同時にアメリカ側全般からの安倍晋三氏の日米関係への寄与、さらには国際的な業績への賞賛が表明されたのである。

《安倍氏の歴史的な業績》

 アメリカという超大国、そして日本の安全保障に欠かせない同盟相手、民主主義や人権尊重という普遍的価値を共有する相手国、さらには戦後の日本の国の特殊な枠組を作った、かつての占領国との関係を

 これほど緊密にし、なおかつその信頼をも深めた安倍氏の実績はまさに日本国にとって、また日本国民にとっては歴史的貢献といえるだろう。その実績をいまの私たちがどう活かしていくのか、喫緊の課題であろう。

(終わり。上はこちら)

トップ写真:トランプ元大統領が来日し、安倍元首相とゴルフをした時の様子(千葉県茂原カントリー倶楽部、2019年5月26日)

出典:Photo by Kimimasa Mayama – Pool/Getty Images




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