FIJ設立記念ファクトチェック・シンポジウム
.経済  投稿日:2016/6/3

増税再延期、財政再建計画は破綻か

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小黒一正(法政大学教授)

「小黒一正の2050年の日本経済を考える」

増税判断については、数か月前から、「伊勢志摩サミット」後に判断する見通しとの見方が強かったが、先般(6月1日)、安倍首相は、2017年4月に予定していた消費税率10%への引き上げに関する延期を正式に表明した。延期幅は、2019年10月までの2年半とする見込みである。いくつかの論点について、以下の通り筆者の見解を述べておきたい。

1)増税再延期で、成長率の下振れを防げるのか

残念ながら、難しい。理由は単純で、実質GDP成長率の低下は、2014年4月の消費増税の影響よりも、人口減少や生産性の低下などに伴う構造的な要因が大きいからである。そもそも、内閣府の推計によると、1980年代の潜在成長率(実質GDP成長率)は4.4%、90年代は1.6%であったが、現在まで低下傾向にあり、2013年以降は0.5%~0.8%で、2015年7-9月期GDP・2次速報後の潜在成長率は0.4%である。急速に進む人口減少の影響もあり、元々、潜在成長率がほぼゼロであることから、少しのショックで成長率はマイナスに陥ってしまう。

また、50年後の日本経済を展望する、政府の「選択する未来」委員会の最終報告書(2014年年11月公表)は、人口減を放置し、生産性も低迷した場合、2040年以降、年平均でマイナス0.1%程度の低成長に陥るとの試算を明らかにしており、「マイナス成長=不況」とは限らない。

つまり、潜在成長率がほぼゼロである現状では、実質GDP成長率がマイナスだからと言って、直ちに不況と判断するのは早計であり、各種の経済指標を総合的かつ冷静にみて判断する必要がある。

2)2019年10月に増税できそうか

現時点で断定はできないが、増税が再々延期となる可能性は高い。まず、内閣府は、「景気動向指数研究会」(座長:吉川洋・東大教授)の議論を踏まえて景気循環の判定をしているが、2009年3月からスタートした第15循環の景気の山を2012年3月、谷を2012年11月に確定し、その資料を2015年7月24日に公表している。これは現在の景気回復が安倍政権発足直前の2012年11月からスタートしたことを意味するが、この資料より、過去の景気拡張期の平均は約3年(36.2か月)であることが読み取れる。

すなわち、景気拡張期はいつ終わってもおかしくない。もっとも、拡張期が6年近くに及ぶケースも過去にはあるが、それでも2018年11月であり、2020年まで拡張期が続く確率は極めて低い。つまり、2017年4月の増税を延期すると、同じ理屈で、いわゆる「空手形」となり、それ以降も当分の間は増税できない可能性がある。なお、増税を2年半延期すれば、次の増税時期は自民党総裁任期(2018年9月)を超えるが、2019年夏の参院選が直前に控えるという政治的な要因も、次の増税判断には影響する。

3)財政再建計画の目標は達成できそうか

現状のままでは、難しい。内閣府は2016年1月の経済財政諮問会議において、「中長期の経済財政に関する試算」(いわゆる中長期試算)の改訂版を公表している。同試算によると、楽観的な高成長(実質GDP成長率が2%程度で推移)の「経済再生ケース」でも、政府が目標とする2020年度のPB黒字化は達成できず、約6兆円の赤字となることが明らかになっている。しかも、この「経済再生ケース」は、2017年4月に消費税率を10%に引き上げていることが前提となっている。このため、2017年4月の増税を先送りする場合、2020年度のPB赤字幅は拡大し、2020年度のPB黒字化のハードルは一層上昇するため、財政再建計画が破綻してしまう可能性も高く、社会保障改革を含め、早急に計画の再設計を開始する必要がある。

なお、増税判断は「増税実施 vs 増税延期」の二者択一ではない。財政再建目標を堅持しつつ、もし景気循環の先行きにも配慮するならば、消費税率を数年間で1%ずつ引き上げることも検討する価値がある。

  

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この記事を書いた人
小黒一正法政大学教授

法政大学経済学部教授。1974年生まれ。京都大学理学部卒業、一橋大学大学院経済学研究科博士課程終了(経済学博士)。1997年 大蔵省(現財務省)入省後、財務省財務総合政策研究所主任研究官、一橋大学経済研究所准教授などを経て、2015年4月から現職。財務省財務総合政策研究所上席客員研究員、経済産業研究所コンサルティングフェロー。鹿島平和研究所理事。専門は公共経済学。

小黒一正

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