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.国際  投稿日:2016/8/5

「英中黄金時代」終焉か?メイ首相、原発新設計画承認延期


岡部伸(産経新聞ロンドン支局長)

岡部伸(のぶる)の地球読解」

英国でキャメロン前政権が進めた「英中黄金時代」の蜜月政策が終焉する可能性が浮上している。欧州連合(EU)離脱を選択した国民投票後、キャメロン氏の後継首相として7月に就任したメイ首相が、中国企業も出資した英国で20年ぶりとなる原発新設計画を、即時承認せず、中国企業の関与に「安全保障上の懸念」を示し、最終決定を延期したためだ。英メディアによると、メイ首相は、対中政策を主導していたオズボーン前財務相に批判的で、側近とともに解任しており、中国との親密な「蜜月」関係を再考するのではないかとの観測も浮上している。

建設を主導するフランス電力公社(EDF)は先月28日、英南西部サマセット州ヒンクリーポイントに新規原発を建設する計画を承認。約180億ポンド(約2兆5千億円)の建設費の3分の1を中国国営企業が出資することになっている。完成すれば英国内の電力需要の7%を賄う見通し。英政府は、計画を即時承認するとされていたが、最終決定は秋になると発表。驚きが広がった。

英紙ガーディアンに首相府高官が明らかにしたところでは、新原発計画の最終決定が延びたのは、新首相が新政権として重要な決定を下したためで、複雑な契約に時間をかけて検討することは当然としている。ロイター通信は、国家安全保障に死活的に重要なエネルギー事業に中国企業が参加することに対して、メイ首相が懸念を表し延期したと伝えた。

キャメロン前政権で内相だったメイ首相は当時のオズボーン財務相が主導した中国の対英投資に懐疑的だったという当時のビンス・ケーブル元ビジネス相の証言が、BBC放送などで報じられた。とりわけヒンクリー原発など重要なインフラ施設への中国の参入を認めたことに安全保障面で懸念を訴えていたという。

この背景にはメイ首相が最も信頼する内相時代からの側近で補佐官、ニック・ティモシー氏の存在がある。彼は、昨年10月、保守党のオンライン雑誌に原発事業への中国企業の参加は「コンピューターの弱点を突いてハッカーなどで英国の電力供給システムを自由にストップできるようになる」と批判。「安全保障を中国に売り渡す」としてメイ首相の判断に影響を与えた可能性がある。

メイ首相は7月21日にパリでオランド大統領と就任後初めて会談した際に、ヒンクリー原発計画を再検討するには時間が必要だとして理解を求め、EDFが新規原発建設を承認した同28日も、オランド大統領と電話会談し、今秋まで最終決定を延ばすことの了解を得たという。一方、中国外務省の華春瑩報道官は1日、記者の質問に答える形で、「(原発計画を)速やかに実施することを希望する」との声明を出した。

英国はキャメロン前首相とオズボーン氏が中国との経済関係強化を推進。昨年10月に習近平国家主席が訪英した際、総額400億ポンドの商談をまとめた。が、言論弾圧などの人権問題への批判は控えたため、露骨な実利主義だとの批判が強まった。

メイ首相は媚中派のオズボーン氏に批判的で、組閣では、財務相職を解いたのに加え「側近も追放し、同氏の実績も排除しようとしている」(フィナンシャル・タイムズ紙)と伝えられている。

2009年ブリティッシュ・エナジーを買収したEDFは福島事故の影響で経営不振に陥り、昨年10月、英国と中国は約180億ポンド(約2兆5千億円)の建設費の3分の1を中国国営企業が出資することで合意。さらにフランス政府が資本増強を支援することでことし4月に合意。7月28日の取締役会で、計画を承認した。計画では、既存原発の隣接地に原子炉2基を建設。完成すれば国内の電力需要の7%を賄い、2万5千人を雇用することになる。


この記事を書いた人
岡部伸産經新聞編集委員

1959年生まれ。立教大学社会学部を卒業後、産経新聞社に入社。社会部で警視庁、国税庁などを担当。
 米デューク大学、コロンビア大学国際関係大学院東アジア研究所に留学。外信部を経てモスクワ支局長。
社会部次長、大阪本社編集局編集委員などを経て編集局編集委員。著書『消えたヤルタ密約緊急電―情報士官・小野寺信の孤独な戦い』で第22回山本七平賞授賞。

岡部伸

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