領土問題悲観論に与せず 日露首脳会談
「細川珠生のモーニングトーク」2016年12月16日放送
細川珠生(政治ジャーナリスト)
12月15日に行われた日露首脳会議。日露関係について東海大学教授・政治ジャーナリストの末延吉正氏に聞いた。
日露首脳会議後に行われた共同記者会見の中では、具体的な北方領土問題の進展について目に見える形での成果はなかったのではないか、と細川氏は懸念を示した。それに対し末延氏は「経済を活性化させながら、平和条約をとにかく締結する、北方領土問題を含む平和条約の締結が大事なんだというところに向けて二人の首脳が自分たちの間にやるんだということがこの宣言に明記されている。」と述べ、領土問題で進展が全くなかったとの見方を否定した。
「ロシアもそれなりに領土問題について考えているということか?」と細川氏が問うと、末延氏は「プーチンさんも簡単にお返しします、とは言えない。(今回の会談で両首脳は)信頼関係積み上げて、経済共同開発する中で、『北方領土解決含む』、平和条約締結が大事だからこれに向けてやろう、と阿吽の呼吸でわかっている。」と述べ、領土問題を解決する方向性で両首脳は一致している、との見方を示した。
戦後71年が経ちあと30年すれば100年が経つ。その中で北方領土問題は新しい解決策が必要だ。日本からすれば、4島が元々は日本の領土であったことをロシアに認めて欲しい。しかしロシアからすれば、4島は戦争で得た勝利品である。双方の主張がある中、北方領土問題、ロシアとの関係を進展させるために日本国民が「この問題をどう自分たちの中で決着をつけるか、ということが求められている。」と細川氏は述べた。
これに対し末延氏は、今回の共同会見で、プーチン大統領は、日露戦争から解きほぐし、1956年の日ソ共同宣言の平和条約締結後には、舞群島と色丹島を引き渡すという話もあったこと、そして当時、国際情勢でアメリカが介入し脅しをかけたこと、したがって今回も経済共同開発をし、信頼醸成をするけれども、ロシアにとってはアメリカを含む安全保障の問題であり、ロシアもそのこと(アメリカのこと)については非常に気にかけていると解説した。
「(プーチン大統領の発言は)その辺の(アメリカとの関係)の難しさは分かってください、という意味。安倍首相の指導力を信頼して、自分もそこは裏切らないのだということで、とにかく(問題解決へ向けて)始めよう、ということである。」(末延氏)
過去、安倍首相がクリミアの経済制裁に乗ったことで、領土交渉が終わりかけた。その後の安倍首相のアプローチもあり、今回の会談に繋がっている、と末延氏は述べた。「両国がスタートするということで、過去の正当性を言い合うのはもう止めようということを確認した。これについて色々な論評出ると思うが、私は確実にこれをやっていけば進むと思っているし、そういう意味では(今回の日露首脳会議は)大変成果があった。」と会談を評価した。
アメリカの存在というものは、日本の安全保障上大きい。そこにプーチン大統領に非常に近い、次期大統領のトランプ氏の登場。これについてはマイナスだという見解もある。しかし、これに対し末延氏は「これは間違っていると思う。逆に、“追い風”。アメリカとロシアの関係も、どんどん動き始めるので、日本も動きやすくなる。そういう意味で、確実に北方領土返還に向けた動きは加速していくと思う。なので、非常に良かったと思っている。」と述べた。
今回で16回目となる日露首脳会議。末延氏は「日本人のいけないところで、悲観的に言うけれど、そんなことはない。行動することが大事で、隣国ロシアとwin-winの関係になっていけば、対中国に対する牽制にもなる。そういう意味では、私は非常に成果があったと評価していいと思う。」と述べた。やっとスタート台に立った日露関係。両氏ともに、これからが重要であるの結論に至った。
(この記事はラジオ日本「細川珠生のモーニングトーク」2016年12月16日放送の要約です。ラジオ放送ネット視聴サービスRadikoにて放送後1週間は録音を聞くことが出来ます。)
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この記事を書いた人
細川珠生政治ジャーナリスト
1991年聖心女子大学卒。米・ペパーダイン大学政治学部留学。1995年「娘のいいぶん~ガンコ親父にうまく育てられる法」で第15回日本文芸大賞女流文学新人賞受賞。「細川珠生のモーニングトーク」(ラジオ日本、毎土7時5分)は現在放送20年目。2004年~2011年まで品川区教育委員。文部科学省、国土交通省、警察庁等の審議会等委員を歴任。星槎大学非常勤講師(現代政治論)。著書「自治体の挑戦」他多数。日本舞踊岩井流師範。熊本藩主・細川家の末裔。カトリック信者で洗礼名はガラシャ。政治評論家・故・細川隆一郎は父、故・細川隆元は大叔父。