[宮家邦彦]外交・安保カレンダー(2014年2月10日-16日)
宮家邦彦(立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表)
幸いソチ冬季オリンピックは今のところ順調に進んでいるが、ロシアの隣国ウクライナでは騒動が拡大しつつある。事の発端はヤヌコビッチ大統領が政治判断を誤り、昨年11月に欧州連合(EU)加盟の前提となる「連合協定」の調印を見送ったことだ。
ウクライナ国民の多くはEU志向を強めている。にもかかわらず、大統領はロシアからの圧力を受け、同協定署名を拒否したばかりか、同国から資金援助まで受ける始末。爾来EU加盟推進派の怒りは爆発し、既に大規模デモが10回も発生している。
キエフの独立広場が大統領退陣を求める勢力で埋め尽くされたのは2004年のオレンジ革命以来だろうか。だが肝心の欧米の足並みは乱れたままだ。10日、EUは対ウクライナ経済制裁の是非を巡って外相会議を開くが、恐らく結論は出ないだろう。
米国もこうしたEUの中途半端な態度に業を煮やしつつある。そんな中でEUを強く非難する米高官の内輪発言内容がYouTubeで暴露され、EU側は猛反発。欧米間では今も醜い非難合戦が続いている。EUは相変わらずまとまりを欠いているようだ。
もう一つ気になるのが中台関係だ。11日には台湾大陸委員会の王主任委員が訪中し、南京で中国国務院台湾事務弁公室の張主任と会談する。中台関係に関する閣僚級の公式会談は初めてだ。最近の中台関係の進展を象徴するような話ではないか。
2008年の総統選挙で国民党が政権復帰して以来、中国の対台湾政策、東シナ海戦略は大きく変わった。爾来、農産品の買い上げから台湾メディア買収まで、中国の台湾に対する一見善意だが、実に計算された一連の懐柔政策が実を結びつつある。
1996年の総統選挙の際のようにミサイル発射などで威嚇してくれば台湾の人々にも判りやすいのだろうが、最近の中国による対台湾政策は見事と言う他ない。台湾のビジネスマンも「このままでは大陸に吸収されてしまう」といった懸念を深めている。
このままでは台湾が危ないと考えるのだが・・・。さて、今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
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