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.国際  投稿日:2017/2/1

「日本人村」だけで駐在終えることなかれ


川端隆史(ユーザベース・アジア・パシフィック リードASEANエコノミスト)

 

【まとめ】

・アジアの日本人駐在員急増

・「日本人村」に籠る人も多い

・現地人の友人を一人作ろう

 

増加する日本人駐在員、半数以上がアジア

日本企業で「グローバル化」や「グローバル人材」というフレーズは、擦りきれるほど使われている。とはいえ、依然として「グローバル化」は日本企業の重要課題の1つであることに変わりない。

外務省統計によれば、民間企業関係者(同居家族除く)で海外に住む日本人の数は、2006年は23万5171人だったが、10年後の2015年は26万7142人へと14%増加した。地域別で最も多いのはアジアで62%と半数以上を占める。また、海外にある日本企業は7万1129社だが、そのうち70%の4万9983社はアジアにある。

2015年時点で邦人数と企業数が最も多いのは中国だが、10年前からほぼ横ばいである。一方で、著しく伸びているのが東南アジアであり、民間企業関係者は4万6132人から7万2680人へと66%増、日系企業数は6121社から9658社へと58%増となっている。

図表1在外日系企業勤務者数(全体).001

図表2在外日系企業勤務者数(中国・ASEAN).001

 

日本語で済んでしまう生活と仕事

駐在員が増加したといっても、日本企業のグローバル化が進んだと単純に言うことはできない。日本人が増えれば、日本人向けサービスも増え、「日本人村」だけで生活や仕事が出来てしまう。駐在して2〜3年が経っても、英語をほとんど使うことがなく、日本人以外の知り合いは殆どないという人も少なくない。

今、日本語情報は海外にいても容易に入手できる。新興国でも、モバイルを含めたインターネット回線が高速化し、日本語のサイトにアクセスできる。最近は、日本のテレビをほぼリアルタイムに海外観られるサービスまで登場している。日本語フリーペーパーも百花繚乱であり、現地情報ですらある程度は日本語で入手できてしまう。

かつては、そこまで日本語サービスが充実していなかった。ネット環境も悪く、否が応でも英語や現地語を使わざるを得なかったが、今は、殆どのことが日本語で住んでしまう国も多い。

 

行きたくもないのに海外赴任

確かに、数年の任期を無難に過ごせば、日本の本社へ無事戻り、つつがない幸せなサラリーマン人生を送ることができる。人生は人それぞれなので、筆者はそうした人生を否定しない。

もちろん、日本人同士で助け合って生活を充実させたり、ビジネスでも様々な機会が広がることもあるだろう。筆者もシンガポール日本人会には個人として入会しているし、民間サービスは利用している。何よりも、駐在の日本人には何かと助けられる。

一方で、知人から「海外赴任をしたいのに希望が通らない。英語も話せず、海外に関心が薄い人が派遣されて納得できない。なかには社命だから渋々行くと公言している人さえいる」という相談を受けることもある。

なぜ、一部の企業は海外赴任に積極的ではない人材を派遣してしまうのか、不思議でならない。もちろん、海外赴任の人事には様々な要素が絡み合うだろう。また、出世のために一度は海外赴任という配慮もあるのかもしれない。

駐在員コストは企業の負担が大きい。同じリソースを割くのであれば、現地に深く入り込める素養のある社員を派遣して、真のグローバル化に貢献するようにすべきだろう。

 

まずは1人の友人を作り、主要メディアのフォローから

「社命で仕方なく来ている」、「顧客は日本人だけ」、という反論もあるだろう。それも否定はしないが、なかには、赴任当初に「現地に入り込みたい」という意気込みがあったが、やり方が分からないうちに日本人村で過ごして、気が付けば帰任を迎えてしまう人も少なくない。

そうした志を持っている人には、まずは1人、プライベートで食事に行ったり、現地生活の相談ができる友人を作ることをすすめたい。自社の社員でも誰でも、身元のしっかりした人であれば良いだろう。

街を案内して欲しい、美味しいレストランを教えて欲しいという身近なところから、現地の人と共に時間を過ごせば、その国の人たちの考え方や行動様式を学ぶことができる。そこで学んだことはビジネスに生きてくるし、現地の生活を楽しむコツも得ることができるだろう。日本人同士で固まっているだけでは、得難い情報が得られるのだ。

また、現地で一番主要な新聞に毎日触れることもお勧めする。もちろん、英語で良いし、紙の新聞ではなくニュースサイトで構わない。時間が無いときは、一面の見出しをざっと確認するだけでも違いが出る。日本語で配信される現地ニュースもあるが、やはり、現地の人と同じものを読む方が、共通の理解で語れるようになる。

駐在員がより現地に入り込むことで、ネットワークが広がれば、ビジネス機会は広がり、サービスや商品も現地の人たちに深く突き刺さるようになり、収益の向上にもつながる。現地を理解しようという姿勢は、必ず現地の人から信頼を得ることにもつながる。公私にわたり、自発的な協力も得られるようになるだろう。

日本人同士で助け合う良さも維持しながら、「日本人村」への過度な依存を脱して、真のグローバル化を目指すべきだ。


この記事を書いた人
川端隆史ユーザベース・アジア・パシフィック リードASEANエコノミスト

1976 年栃木県生まれ。

東京外国語大学東南アジア課程マレーシア専攻卒業後、外務省入省。

 在マレーシア日本国大使館、国際情報統括官組織などに勤務し、日本の東南アジア外交や国際テロリズム分析等に従事。

 2010年に民間企業に転身。2015年までSMBC日興証券金融経済調査部でASEAN担当のシニアエコノミストとしてマクロ経済と金融市場をリサーチ。

2015年8月には新興の経済メディアNewsPicksと経済情報プラットフォームSPEEDAを手がけるユーザベースに参画し、2016年3月からシンガポール拠点に勤務。

 2006年から東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所主催のイスラーム研究プロジェクトに参画し、2012年から共同研究員。

 共著書に「マハティール政権下のマレーシア」「東南アジアのイスラーム」。

川端隆史

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