「混迷の責任は小池知事」石原氏会見
安倍宏行(Japan In-depth 編集長・ジャーナリスト)
「編集長の眼」
【まとめ】
・移転決めたのは官僚と議会。
・豊洲市場は安全、混迷の責任は小池知事にある
・瑕疵担保責任免除「知らない」
「座して死を待つつもりはない。」作家らしいいつもの石原節だったが、勇ましかったのは最初だけ、3日午後の記者会見は全く新味がなく、むしろ自らの“無責任さ”を強く都民に印象付けたものとなった。
今回の会見の主張のポイントは以下の通り。
①豊洲移転を決めたのは司(つかさ)、司の役人や委員会、そして議会。自分は最高責任者として裁可した、“作為の責任”は負う。
②豊洲市場は安全だと証明されている。それを移転せず混迷を招いている、“不作為の責任”は小池知事にある
③瑕疵担保責任免除については、だれがやったか知らない。
結局、安全なんだから早く移転すべきだ、ということと、役人と議会が決めたことだから細かいことは聞かれても分からない、と繰り返し主張したに過ぎない。新しい事実は何も出てこなかった。そして石原氏が繰り返し強調したのが、「私は専門家でない。科学者でない。商売したことない。」というもの。しかし、都の最高責任者である都知事が東京ガスとの土地売買契約の内容を何も知らなかった、では済むまい。
そもそも浜渦氏(元副知事)に一任していたことは石原氏も認めているわけだが、今日の会見では浜渦氏から報告はなかった、とした。さらに瑕疵担保責任免除については都から質問状で聞かれるまで聞いたこともなかったと述べた。にわかには信じがたい。普通の企業だったら契約の中身を何も知らずに判子を押したことになる。
この問題については、2012年5月に住民訴訟が起こされている。移転予定地の一部で土壌汚染が確認されたのに汚染対策費を考慮せず購入したのは違法な公金支出だったとして、石原氏に土地購入費約578億円を請求するよう都に求めているものだ。石原氏が瑕疵担保の問題について、“知らぬ存ぜぬ”を決め込んでも、“水面下の交渉”を東京ガスと行った浜渦氏らが百条委員会で証言すれば明らかになる。もし、石原氏が契約の中身を知っていてGOを出したのなら責任は逃れられないだろう。そういう立場に置かれているにもかかわらず、石原氏は、浜渦氏には会見の前まで一切問いただしていない、と述べた。これまた不可解としか言いようがない。
そして、豊洲市場の安全性の問題である。石原氏は終始、豊洲市場は科学的に安全であり、今は科学が風評に負けている状態で「国辱ものだ」と述べた。これについては、今年1月14日に豊洲市場の地下水モニタリングの調査結果で、有害物質のベンゼンが暫定値で最大で“環境基準”の79倍検出され、シアン、ヒ素も基準を超えたことが分かり、豊洲市場は安全ではないとの認識が一気に都民の間に広まった。引き続き、「豊洲市場における土壌汚染対策等に関する専門家会議」が調査を続けることになっているが、石原氏は会見で、京都大学大学院工学研究科の米田稔教授や、産業技術総合研究所の中西準子名誉フェローに、豊洲市場の安全を確認したという。また、そもそも「“環境基準”のxx倍の汚染物質が検出されたから安全ではない」、という議論は意味がない、との主張もある。(注1)
だとするならば、メディアは科学的に豊洲市場が“安全”であるかどうかの検証報道をすべきではないのか。“安全”の議論を深めないまま、発表される数字だけを報道するのは都民をミスリードするだけでなく、移転の問題をさらに遅らせて多額の損失を都の財政に与えることになる。石原氏の指摘を待つまでもなく、一刻も早くこの問題を決着させることが必要だ。豊洲市場問題を政争の具にしてはならない。苦しんでいるのはいつ結論が出るかわからず、宙ぶらりんのまま放っておかれている卸、仲卸業者の皆さんらであることだけは間違いない。賽は小池知事に投げられた。
(注1)宇佐美典也のブログ
トップ画像:会見する石原慎太郎元東京都知事 ©公益社団法人 日本記者クラブ
文中画像:豊洲市場 ©東京都中央卸売市場
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この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員
1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。
1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。
1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。
2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。