動けアスリート たばこフリー五輪実現へ
為末大(スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役)
【まとめ】
・オリパラでソフト面のレガシー残すことが大事。受動喫煙防止はその一つ。
・子供の健康を守ること以上に重要な事はない。
・引退したアスリートがその決定プロセスに積極的に関わるべき。
2020に東京で五輪を迎えます。五輪はどんどんと巨大化し、これまでの例から決して簡単に儲かるイベントではないというのが明らかになって来ています。五輪そのものでは儲からないから、むしろ五輪を使ってどのようなことを実現するか、もっと大きなことを言えば五輪を使ってどのような国にするというビジョンを内外に示すのかが重要になって来ています。
その一環として、ロンドンあたりからレガシーという言葉をIOCも使い始めました。レガシーは遺産という意味ですが、ここでは五輪後に残るものという意味合いで使っています。
さて、現在日本で議論されていることの多くがハード面のレガシーについてです。たしかに大きなお金が動く話ですし、これは議論しておかなければなりません。たくさんの施設が作られますが、これが2020以降にしっかりと都民、国民にとって有益なものとしていかなければならないと思います。一方で、ソフト面のレガシーはどうなっていくべきでしょうか。
さて、受動喫煙防止策が現在自民党内で議論されています。エビデンスはほとんど出揃っていて、受動喫煙が健康に及ぼす影響は多少の違いはあれど、悪いという内容で一致しています。どういう理由があって議論が揺れているのかわかりませんが、50年ぐらい未来から見るととても小さなことで議論しているに過ぎないと思います。国民の、子供の健康を守ること、以上に重要視すべきことはないと思います。
ですので、おそらく2020以降から見れば十分に五輪のレガシーと言っていい内容と言えるでしょう。私はこの決定プロセス、または世論形成に引退したアスリート(なんなら現役も含め)が積極的に関わるべきだと思っています。
実はレガシーを作るということに関して、アスリートが関われることはそれほど多くありません。へーそんな施設になるんだという感想を持っている人がほとんどだろうと思います。現役選手は競技のことでそれどころではありませんし、引退した選手にはそんなに多くの機会は与えられません。
ですが、少なくとも大前提にアスリートファーストという言葉を掲げているように、アスリートの意見は本当は重視されるわけです。アスリートたちの声でルールを変えられる可能性があります。今回はその貴重なレガシーつくりに関われる機会だと思っています。
前回の国立競技場はだいたい50年ほど使われました。レガシーというのは50年後の未来を考えて設定するものだろうと思います。
私は現役選手としては五輪には関われませんが、50年後の私の子供の子供の子供あたりから、ありがとうと言われるレガシーを一つぐらい残したいと思っています。国民の健康に寄与する決定がアスリートの声の貢献によってなされたという事例は、元アスリートとして誇らしいことだと思っていいのではないでしょうか。
というわけで私は受動喫煙防止策に賛成します。ぜひ原案で進めていただきたいです。そして選手の皆さんにも声をあげていただきたいと思います。
(この記事は2017年5月17日に為末大HPに掲載されたものです)
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この記事を書いた人
為末大スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役
1978年5月3日、広島県生まれ。『侍ハードラー』の異名で知られ、未だに破られていない男子400mハードルの日本 記録保持者2005年ヘルシンキ世界選手権で初めて日本人が世界大会トラック種目 で2度メダルを獲得するという快挙を達成。オリンピックはシドニー、アテネ、北京の3 大会に出場。2010年、アスリートの社会的自立を支援する「一般社団法人アスリート・ソサエティ」 を設立。現在、代表理事を務めている。さらに、2011年、地元広島で自身のランニン グクラブ「CHASKI(チャスキ)」を立ち上げ、子どもたちに運動と学習能力をアップす る陸上教室も開催している。また、東日本大震災発生直後、自身の公式サイトを通じ て「TEAM JAPAN」を立ち上げ、競技の枠を超えた多くのアスリートに参加を呼びか けるなど、幅広く活動している。 今後は「スポーツを通じて社会に貢献したい」と次なる目標に向かってスタートを切る。