[為末大]過去を消せない時代〜自分の行動・言動が全て残され、死後も他人に見られる可能性がある
為末大(スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役)
Google会長エリック・シュミットの著書『第五の権力』を読んでいて、「過去が消せなくなる」という章でうーんと考え込んでしまった。将来的にほとんどの人がオンラインでつながり、そこにあるものは理屈上は消せなくなると書いてある。厄介なのは真実かどうかすらさほど問題でなくなると。
今ですら私達は例えば仕事で関係しそうな会社をインターネットで検索する事をやる。そこにはいい情報、悪い情報が載っていてそれで判断する。その情報が本当かどうかはさほど気にせずに。おそらく今後、個人でも同じ事をやる機会は増えると思う。
そうなると自分とネットが結びついている実名の場では人は未来から振り返って不利益がないように警戒して行動するようになるのだろうか。そうなると現実社会以上に建前で過ごす事になる。結果として匿名の世界にもっと人のどろどろした部分が集まるのだろうか。
心理学者フランク・パヴロフの『茶色の朝』という本の話。物語では、茶色以外のペットを飼う事を禁止する法律ができる。それぐらいならと我慢していた主人公に新しいニュースが入ってくる。今度は、昔茶色以外のペットを飼っていた人も処罰の対象になる、と。
ネットはどうも息苦しいと、お茶をしている時に仲間と話をする。時にはヒートアップして人種について等のきわどい話もする。たまたま横に居合わせた別の客が例えばウェアラブルデバイスで録音か撮影をして、ネットに流す。消えない過去が一つできてしまう。
自分の行動、言動が全て残されて、自分が死んだ後すらも人に見られる可能性があると考えると、一体私達の感覚はどうなるのだろうか。何となく匿名の世界が充実するのはこういった息苦しさからの回避なのかもしれないと思う。
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