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.社会  投稿日:2014/3/18

[為末大]<勝負弱さを検証する>自分のレベルより高い所を受験して落ちても「勝負弱い」とは言わない


為末大(スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役)

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米国の『スポーツ・イラストレイテッド(Sports Illustrated)』というスポーツ紙の表紙を飾ると、必ずその後、スランプになるというジンクスがあった。

選手達はスランプを恐がり、表紙に載るのを敬遠したりもしたという。調べてみるとなんと8割もの選手が成績を落としたという。

調べてみると、表紙を飾った時は、その選手が自分の平均値より優れた成績を出している。その後は当たり前のように平均へ回帰するのだけれど、見ている側にはそれがスランプに見えたというのが実際の所だった。ルーレットでたまたま5回続けて「黒」が出ても、結局、最後には「赤黒」五分五分にいきつく。

陸上の世界大会でよくあったのは、報道としては残念と言われるのだけれど、選手村に帰ってくると順当だと言われる事。特に日本の競技場は極めて記録が出やすい。大体実力に上乗せされた記録だから、実際の世界の位置とずれがある。

正直な所、冬季五輪のほとんどの種目の選手達の世界でのポジションを知っている人はさほど多くないのではないかと思う。仮にワールドカップで勝ったとしても、「誰々が出てなかった」とかいろいろある。ロンドン五輪の前、柔道選手が勝っていた試合にライバルは出ていなかったそうだ。

わからないものほど、誰かが言った言葉を鵜呑みにするしかない。おおかた専門的に取材をしている人ではなく、大きなメディアの予測が世論の期待値を決めている。メダル候補だと各人が予測するのではなく、メダル候補だと「昨日テレビで見た」からそう思う。

そのバイアスを除いた上で、それでも本当に勝負弱かったのかの検証をした方がより現実に近いと思う。自分のレベルより高い所を受験した子が試験に落ちた場合、「勝負弱い」とは言わないと思う。

 

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