[為末大]みんな一つになれる、の功罪〜震災報道に見る「排他性」と「秩序」が共存する日本人の同質性
為末大(スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役)
2011年3月11日。
それまで日本の短所は「個性のなさ」であり、「主張のなさ」と言われていたように思う。会議ではしゃべらない。リスクを取らない。人の顔色ばかり見ている。空気を読んでばかりいる。同質な社会が生み出す、同質な人々。
3月12日、13日の世界の報道は、奇しくも日本の同質性が生み出した結果を誉め称える記事ばかりだった。一晩家に帰れずようやく来た電車に列をなす人々、まっくらなコンビニでレジを待つ人々。主張せず、他者を配慮しているからこそ、暴動もさして起きなかった。
一方で、震災後に不謹慎と言われスポーツ選手は自粛を迫られた。ツイートで朝ご飯と書いただけでも罵られている光景をよく見た。同質性社会とSNSがくみあわさると、随分と窮屈な正義の世界が出来上がってしまう。特にあの時はそれを垣間みた。
震災後、思い出されるのは女子サッカーのワールドカップ優勝だろうか。たくさんの感動の最中、日本が一つになれたという言葉がたくさんあった。一つになれないものを排除する力と、一つになろうとする力と、一つになれた感動。光と陰。
人の役に立ちたいという思いは、日本も欧米社会も同じだろうと思うけれど、彼らは誰かの役に立ちたいと対象を狭めている。日本はみんなの役に立ちたいと言う。対象に入らなかった人の気持ちを考えて、広く平等な貢献を目指す。
多くの場合“みんな”は地球人類をさすのではなく、日本人を指している。その同質性が排他性を生み、一方で災害時に秩序を保ち、飛び抜ける才能を平均化し、一つになれた感動を与える。大きな一つの生き物のように動く私達。
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