[大平雅美]<小保方報道とリケジョ研究者の現在>進まない男女共同参画だからこそ「覚悟」が必要
大平雅美(アナウンサー/大正大学客員准教授)
日経新聞(2014.4.01)朝刊に、ロレアル賞(科学で優れた業績をあげた女性研究者に贈られる賞)を受賞した京都大学副学長の稲葉カヨ氏のコメントが掲載されている。女性研究者が育つ条件として「覚悟が必要」とし、さらに大学などの支援体制が整えば「サポートが生きて活躍できる」とし、支援ありきの風潮にくぎを刺している。
折しもSTAP論文をめぐる疑惑の本質が一向に解明されない中、私もいくつかの記憶が蘇ってきた。私自身は文系であるがPRとコーディネーター力を買われて、文部科学省科学技術振興調整費を使って行う理系の女性研究者を支援する「女性研究者支援モデル育成事業」の支援コーディネーターとして3年近く参加した。
そこでまず驚いたのは理系研究者の研究時間の長さと質である。実験は毎日規則正しく行う必要があるため、大きな研究になればなるほどひとりで行うことは難しくチーム作業となる。
しかしひとりでも怠ける人間がいるとデータが損なわれる可能性があるため人選は厳しい。
さらに実験データの収集、分析、 解析、執筆などやってもやっても山のように仕事がある。
そのためこうした文科省の別事業に選ばれた先生たちは、自分の研究外活動であるため昼夜を問わずメールで活動内容を報告確認しあう。午前3、4時に教授同士で議論が盛り上がっていることも度々で、私は理系研究者のあまりの仕事量の多さとタフさに驚いた。
また、女性研究者は同期に入った男性研究者に比べて昇進が遅れる傾向にある。データでは、科学技術分野の研究職女性の割合は約14%(「総務省科学 技術研究調査報告」平成24年時点)と先進各国のなかでも最低レベルで(英 38.3%米34.3%)、助教、准教授、教授と職位が上がるにつれて女性の割合はさらに低くなる傾向にある。
男女共同参画と科学技術振興において、地道で長い闘いを続けているリケジョ業界で、華やかに登場した小保方晴子氏。割烹着を着て、きれいな巻き髪、おしゃれなアクセサリーをまとった彼女は一躍リケジョの花形になった。
この颯爽とした姿をみて釈然としない同性の研究者も少なからずいたはずと思う一方で、最初の発表は小保方さん自身に焦点があたる男性社会に翻弄されたものだったとも思える。確かに改ざんやねつ造は許されるものではない。
しかし、理研による論文疑惑の最終報告の場所に女性がひとりもいなかったのもこれまた残念なことである。 この騒動によって日本中にいる優秀な理系の女性研究者の芽がつまれないことを切に祈るばかりである。
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