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.社会  投稿日:2014/2/23

[大平雅美]<まわたふとん>消えてゆく実用品・消耗品の美に見るクールジャパン〜1枚の布団に450枚の「まわた」を重ねる日本寝具の地道な技


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大平雅美(アナウンサー/大正大学客員准教授)

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みなさんはどんな“かけ布団”で寝ていますか? 羽毛布団や羊毛布団が多いと思いますが、尋ねている私も1年を通して羽毛布団です。今はヨーロッパ産の良質な羽毛布団が安く手に入り、機能的で暖かいので手放せない人も多いでしょう。では日本に古くからある「真綿ふとん」を知っている人はどれくらいいるでしょう? 東京西川のアンケートによると、何と64.7%もの人が知らないと答えています(20代〜40代の男女510名)。知っている人は35%程度ですから何とも残念な結果です。

真綿の歴史は古く2000年前の中国に遡り、日本でも「魏志倭人伝」に「真わた」を生産していたとの記述があり上流階級の防寒用として使われていたようです。その真綿、綿の字を使うことから、コットンと思い違いをしている人がいるかもしれません。もともとは繭をわた状に引き伸ばしたものを「わた」と呼んでいたのですが、後年木綿の登場で「真わた」になったことから混同されることが多いのです。従って繭から1本の糸を紡いで生糸にする「絹」と「真綿」は姉妹関係ですが、「木綿」と「真綿」は同じ天然素材でも全く違うものなのです。

さて、真綿ふとんですが、日本人ならではの手仕事の丁寧さと繊細な美しさがあります。仕事を見せていただきましたが、まず布団職人が「手引き」と呼ばれる技で、ハンカチ大の「角まわた」を布団の大きさ(150×200)に引き伸ばします。すると薄くてきれいな蜘蛛の糸状のシルクの膜ができます。これを長年の勘でムラなく均一になるように布団状に重ねるのですが、その回数なんと1枚の布団で約450枚!

つまり、たった1枚の掛け布団を仕上げるために二人の職人が450回も伸ばしたり重ねたりの作業を行うのです。気が遠くなるような工程ですが、これはまだ布団の素材部分。布団の側地は、絹100%の羽二重地に鹿の子絞りや帽子絞りなどを施します。着物でもおなじみの絞りは根気のいる作業で同じものはひとつとない美しさですが、1枚の布団にかかる日数は約45日!

この後やっと染色です。画像は京都の伝統工芸士、森本浩市さんの手による染色で、日本の伝統色の茜×紫、松葉×山吹など上下2色のぼかし染めで1枚1枚仕上げていきます。見学していた人が次々に言いました。

「この布団で寝るといい夢が見られそう」

「貴人や貴婦人になった気分だ」

「トゲトゲした心がこの色合いで溶けていきそう」

布団は着物よりも使用頻度の高い生活用品。従って消耗していく運命にあります。公的に保存するのはなかなか難しいでしょう。しかし実用の中にこそ、「美」があり「真」があり「力」があると思えます。日本の魅力を、日本の中で見直し、再発見し、実用する。伝統工芸品は手間と時間がかかっているので一般的な製品より高価です。

しかし、貴重だからと保存や鑑賞に走るのではなく、「用の道」を探ってこそ未来があると思うのです。そこからクールジャパンに繋がる新たな波が生まれるかもしれません。茜色、藤色、山吹色、松葉色…この懐かしく美しい色は日本の風景の中にあります。

 

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