無料会員募集中
.国際  投稿日:2014/4/4

[梁充模]<女性の地位が向上しない韓国>大統領が女性でも性格差111位はイスラム圏なみ


梁充模(経済ジャーナリスト)

執筆記事TwitterFacebook

次の二つの事実を改めて考えてみよう。

一つ目、現在の韓国の大統領が「女性」であること。朴槿惠(パク・クネ)大統領は2012年の選挙で女性有権者の過半数以上から支持を受け、青瓦台(チョンワデ・大統領官邸)に入城した。

二つ目、世界経済フォーラム(WEF)が発表した「2013世界性格差レポート」で、韓国の性平等指数がイスラム圏国家並みの水準であったこと。韓国は前年に比べ三つ順位落ちた111位、アラブ首長国連邦(UAE)が109位、バーレーンが112位、カタールが115位だった。

この二つの事実からギャップを感じるが、いずれもこれが韓国の現実だ。史上初の女性大統領を迎えはしたものの、それが女性地位の向上には繋がっていない。

一つ断っておかなければならないのは、制度はきちんと整備されているということだ。その一例が「女性割当制(クオータ制)」だ。これは、比例代表議員選挙の候補者の5割以上を強制的に女性に割り当てる制度だ。この制度の導入で、わずか11人(2000年、全体比3.7%)に過ぎなかった女性国会議員の数が現在は47人(全体比15.7%)にまで増加した。

こうした制度はまだ日本には導入されていない。

これ以外にも「男女雇用平等と仕事・家庭両立支援法」「経歴(キャリア)断絶女性等の経済活動促進法」など女性のための制度はいくらでもある。

問題は制度と現実のねじれだ。見えない壁が女性の社会進出を阻んでいる。社会進出が経済活動への参加を意味するとしたら、韓国の女性は就職する際も、就職してからも壁にぶつかる。

就職が難しいのではない。大学卒業後2年以内に8割以上が就職に成功している。しかし、正規職で、国民年金・健康保険に加入できて、新入社員の平均年収以上を支給しているいわゆる「良い職場」に就職した女性(14.7%)は男性(24.4%)より少ない。

これは女性の実力の問題ではない。某大手企業の人事担当者は、高スペックなのはむしろ女性の方が多いと言う。ところが、実際の採用では個人の実力のみならず「組織の論理」を考慮しなければならない。ここで偏見が作用する。「女性は会社をすぐ辞める」「女性は組織文化に慣れない」などの男性中心的な考え方がそれだ。

男性中心的な考え方は就職してからも女性を苦しめている。社会認識が変化しつつあるとは言え、まだ韓国では「育児は妻の役割」という傾向が強い。共働きをしても結局育児は女性が担うのが厳粛な現実だ。結局、出産と育児の段階で辞表を出すワーキングママが多い。社内に保育施設を備えている会社も一部存在するが数少ない。「会社がうるさくなる」という男性社員の反対に遭い、保育施設の代わりに休憩室を設置したケースもある。

ある程度子供が成長した後、家計のために再就職する女性が多い。このため、韓国女性の年齢階級別の労働力率は20代でピーク、30代で落ち込み、40代で再上昇する「M字形カーブ」を描いている。これは「女性のキャリア断絶」を意味する。キャリア断絶の影響は低い賃金と非正規雇用の形で現れている。再就職によって女性の社会進出が進んできてはいるが、その裏には「質の悪い雇用」の増加がある。

グラス・シーリング(ガラスの天井)が少しづつ割れているのは肯定的な変化だ。2004年には13人に過ぎなかった100大企業の女性役員は、2012年に初めて100人を越えた。この先駆けと言える企業が三星(サムスン)だ。

三星は2014年の定期役員人事で過去最大規模の15人を役員リストに追加した。しかし、まだ韓国企業の女性役員・取締役比率は約1.9%と、先進国平均(11.8%)、新興国平均(7.4%)に及んでない。 朴大統領は新年の記者会見で女性の社会進出の必要性を強調した。低成長時代に差し掛かった韓国経済の復興のためには女性を活用しなければいけないとの論理だ。

これは、成長戦略の「三本目の矢」で「女性が輝く日本」を挙げているアベノミクスと論理的に一致する。逆に言うと、日本の状況は韓国と特段違いがないとも読めるだろう。日本も低成長時代に差し掛かっており、M字形カーブを描き、グラス・シーリングも堅固な社会だ。

女性自体のためではなく経済復興の手立てとしている両国の女性政策が、女性問題の解決にどの程度役立つかは疑問だ。確実に言えるのは、女性問題の本質は経済ではなく社会の認識にあるということだ。これまで両政府が増やしたのが女性の非正規労働であれば、間違った兆候だ。このままでは女性問題は根本的に更に悪化していくのではないだろうか。

経済復興という旗は両国の女性を新たな犠牲に導いているのかもしれない。

【あわせて読みたい】

【執筆者紹介】

スクリーンショット 2014-03-13 0.33.52

梁充模(ヤン・チュンモ)経済ジャーナリスト

1983年、韓国出身。

2011年、延世大学人文学部史学科(東洋史学専攻)卒業。 同年、韓経マガジン入社。雇用・ライフスタイルなどを担当した。TV Work NET 「Job Today」 「就業&」など出演。 現在は経済ジャーナルリスト。韓経ビジネス、週刊東亜、政府刊行物などに寄稿中。

 

タグ梁充模

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."