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.国際  投稿日:2014/2/2

[古森義久]中国を多角的に視るアメリカ〜1月31日に発表した「中国の人権状況」で、アメリカが内政干渉ともされかねないほど中国の国内事情に踏み込むのはなぜか?


古森義久(ジャーナリスト/国際教養大学 客員教授)

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アメリカの「中国に関する議会・政府委員会」という機関が1月31日、中国での人権の状況を中国語の報告書で発表した。その内容は中国の共産党政権が自国民の各種の人権を抑圧しているという指摘だった。この機関は文字どおり、アメリカの立法府と行政府とが合同で中国の社会や人権について恒常的に調査するために設置された。

だがなぜアメリカの議会と政府がともに中国の国内の人権状況を詳しく調べ、さらにその結果をあえて中国語にまでして公表するのだろうか。そのへんを探ると、超大国のアメリカがいま膨張を続ける中国をどう視て、どう対処しようとしているのかが、浮かんでくる。

今回、中国語で公表されたのは、この「中国に関する議会・政府委員会」の2013年度の年次報告の要約だった。その骨子は中国の共産党政権が自国の国民の人権を少なくとも19の領域にわたって抑圧しているという指摘だった。

それら領域とは、

①表現の自由 ②労働者の権利 ③刑事訴訟手続き ④宗教の自由 ⑤チベット 

⑥新彊ウイグル地区 ⑦少数民族の権利 ⑧人口・出産 ⑨居住と移動の自由 

⑩女性の地位 ⑪人身売買 ⑫中国領内の北朝鮮難民 ⑬環境保護⑭民主的統治 

⑮市民社会 ⑯司法へのアクセス ⑰公衆衛生  ⑱香港とマカオの住民の権利

⑲政治犯の実態

――だった。「要約」はその各領域できわめて具体的な抑圧や弾圧の実例をあげていた。世界人権宣言や中国自身の人権についての宣言を基礎の指針としていた。

アメリカがこうして内政干渉ともされかねないほどに中国の国内事情に踏み込むのは、一つには超大国としての実績と自負だといえる。国際規範のために積極果敢に発言せねばならないという意識だろう。

第二には中国がそれほど大きな存在になったという認識だろう。アメリカの対外戦略、そして国内経済などにとって中国の実態を常に把握しておくことが必要になったということでもある。その種の調査の結果を中国語にまでするのは、当然、中国の現実とそれに対するアメリカの姿勢を中国国民一般にも広く知らせたいという狙いだろう。

アメリカではこの種の中国研究、中国分析が国政の場でその他の多数の同種の機関により、常に進められている。国防総省の毎年の中国の軍事力の報告、国務省による中国の宗教や人権の自由抑圧の報告、大統領府の通商代表部による中国の世界貿易機関(WTO)規則違反の報告など、そのほんの一部である。

いまや日本にとっても中国研究への国家レベル、国政レベルでのこうした取り組みが必要になったといえよう。靖国や慰安婦という問題で中国が日本を激しく非難するなかで、その当の中国がどんな国家なのか、まずオールジャパンで知るべきだろう。

 

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