[藤田正美]<日本に韓国パク大統領とつきあう覚悟はあるか>海難事故に見るパク大統領の反近代的対応
Japan In-Depth副編集長(国際・外交担当)
藤田正美(ジャーナリスト)
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ひとつの大惨事が、政府にとっても「大惨事」になるのはよくあることだ。その最新の例がお隣、韓国で進行している。
乗客乗員473人を乗せた旅客船セウォル号の沈没事故である。4月16日に事故が発生して以来、政府の対応が後手後手に回ったうえ、発表内容が二転三転、さらに救助活動もなかなか進まない。沈没したとき船内にいかたもしれない生存者は、今のところまったく発見できず、いまだに100人を超える行方不明者がいる。
とうとうチョン・ホンウォン首相が政府の不手際を一身に背負って辞意を表明した。 パク・クネ大統領の支持率も下がっている。こうした劣勢を一気にはね返そうとしたのかどうかはわからないが、どうにも気になることがある。それはパク大統領の発言だ。
船長はじめ多くの乗組員が乗客の誘導をそっちのけにして脱出したことについて、大統領はまるで「殺人のようだ」と語ったのである。 乗客にはその場から動かないよう指示し、自分たちは先に逃げたというのでは、逮捕された乗組員は、どうにも申し開きはできまい。どのように事故が起きたのかの検証が済んでいなくても、船長たちの「有罪」は確定的であるかのように見える。
しかし、メディアや 一般の人々が乗組員を非難するのと、一国の大統領が「殺人のようだ」というのでは天と地ほどの開きがある。
本来、大統領が話すべきことは、亡くなった人々への哀悼と行方不明者の捜索に全力を挙げること、家族への励まし、そしてこのような悲惨な事故を起こさないように、徹底的な原因究明を命じることだ。事故の検証も、過失の有無も、そして刑事罰に問えるかどうかも分かっておらず、もちろん裁判で有罪になるかどうかも分からないときに、強い言葉で非難することでない。
事故対応に関連して、大統領の支持率が下がっていた。それを押し止めようとしてこの発言をしたのなら、それはポピュリズムそのものだと思う。大衆が受け入れやすい言葉で、他人を攻撃するのがポピュリスト(大衆迎合)の常套手段だ。
パク大統領の「殺人」発言は、ポピュリズムというだけではない。聞き方によっては、近代社会における基本的人権を無視した発言である。近代社会では、裁判で有罪になるまでは無罪という「推定無罪」が原則だ。この原則を踏みにじるものということもできる。
今回の海難事故では、韓国メディアが「韓国は三流国だ」などとする記事も書いている。事故対応があまりにもまずかったからだ。しかしこのパク発言を問題にした記事は欧米メディアも含めてあまり見たことがない。明らかに船長たちに落ち度があるように見えるから、メディアも有罪と決めてかかっているようだ。
それでもあえて言う。メディアが書くのと、大統領が言うのでは、当然のことながら言葉の重みが違う。 大統領が自分への反発をそらそうとして攻撃対象を自分が明示したのであれば、それは政治家としては最低の行為である。もしそうではなく、自分が本当にそう思ったというのなら、それは一国の大統領としてはいかがなものかと思う。
日本は、そういうパク大統領と付き合っていかなければならない。そういう覚悟はできているだろうか。
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