[古森義久]<米の防衛責任は日米安保条約の核心>尖閣の日米安保適用はオバマ政権の新政策ではない
古森義久(ジャーナリスト/国際教養大学 客員教授)
アメリカのオバマ大統領の来日では尖閣諸島が日米安保条約の適用範囲になる、という見解の再確認が最大の話題となった。
尖閣が日本の施政権下にある以上、日米安保条約の適用は当然とされるが、18年ごろ前には、アメリカ政府はそれを否定する見解を表明していた事実は銘記しておくべきだろう。
この論題の核心は要するに、中国が尖閣諸島に武力攻撃をかけてきたとき、アメリカは日本の同盟国として実際に尖閣を防衛するのか否か、という点である。そのアメリカの防衛責任を規定しているのは日米安保条約の第五条である。その条文の骨子は以下のようだ。
「(日本とアメリカ両国は)日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従って共通の危険に対処するように行動することを宣言する」(日米安保条約・第五条より)
この第五条の尖閣諸島への適用をオバマ大統領が明言し、日米共同声明にも明記されたわけだ。日本側はこの明言で尖閣諸島に対する武力攻撃にはアメリカが必ず介入して、日本側を守ることを誓ったと解釈し、歓迎した。
しかし、日本の施政権下にある領土への第三国の武力攻撃にはアメリカも対応することは日米安保条約の核心として、長年、はっきりとうたわれてきたのだ。だからオバマ政権の新政策ではないのだった。
だが、一方で第五条の条文を読むと、日本の施政権下にある領土に武力攻撃があっても、その対応は日米両国が「自国の平和と安全を危うくする」ことを認め、さらに「自国の憲法上の規定と手続に従って」こそ、と規定されている。
つまり武力攻撃があったから自動的に米軍が行動を起こすというわけではないのだ。この点は日本側も注意すべきだろう。
それよりも興味深いのは、オバマ大統領と同じ民主党のクリントン政権時代の1996年9月、当時のウォルター・モンデール駐日大使が「米軍は尖閣諸島の武力攻撃による紛争に介入せねばならないという日米安保条約上の責務は有していない」と述べたことである。
モンデール氏はこの点をニューヨーク・タイムズの記者のインタビューで明言したのだった。日本にとっては重大な事態だった。私もこの点、気になって、モンデール発言についての見解を国務省やホワイトハウスの報道官らに何度も問いただした。だが、「ノーコメント」という答えが返ってくるだけだった。
この論評拒否はその後、民主党クリントン政権が退陣する2000年までは続いた。ところが2001年に登場した共和党ブッシュ政権は、このモンデール見解をあっさりと破棄してしまった。尖閣は日米安保条約の適用範囲内に入るというのだ。
オバマ大統領の今回の言明も実は2001年来の共和党政権の路線の踏襲なのである。
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