[加藤鉱]<迫り来るバブル崩壊を理解できない中国人>バブル崩壊の警鐘を「日本人の嫉妬だ」とまで言う
中国の経済は掴みどころがなくて非常に難しい、と巷間言われることが多い。「チャイナクラッシュの時期を当てるのは困難」と逃げ口上を打ちたがるチャイナウォッチャーと言われる人たちが多いのも事実である。
いちばんの理由は、政府発表の数字がまるで当てにならないことにある。GDP伸長率にはじまり、このところの不動産価格の下落状況、あるいは公共事業に対する投資額の下落状況にしても、どこまで都合よく“化粧”を施されているかわからず、実態を把握するのはまず不可能なのだから。
国が大きすぎることから、バッファーも同様に大きいという要因もあるだろう。 たとえば不動産バブルがピークに達し、一気に物件価格が急落していく場面を、日本は1990年代初頭に経験したはずである。
ところが、広大な中国においては、いったんピークを打ってから目に見えて衰退するまでのタイムラグが際立って大きい。都市部にいたっては、タイムラグの大きさゆえに、ミニバブル崩壊が起きてもそれを認識できないうちに次のバブルの波が打ち寄せてくるような事態を繰り返してきた。
『中国経済は2008年の北京五輪後には失速する、2010年の上海万博後には不動産バブルが崩壊する』、と一部メディアはかまびすしく報じたが、結局、そうはならなかった。だが、その内実は上記のような事象が起きていたのである。その背景には、政府がGDP拡大のために打った史上最大のケインズ政策が横たわっているのは言わずもがなだが。
この4半世紀、中国人の多くは不況らしい不況を経験していないし、欧米日のメディアから『バブル崩壊は近いぞ』と警告を発せられてもおそらくピンときていないはずである。
現在の中国では200万元 (3500万円)以上の年収がある人を富裕層と定義しており、都市部にはうようよいる。彼らは日系スーパーで日本産の新米が売り出されると、1キロ500元(8500円)の超高級米をなんの躊躇いもなく買っていく。
先ごろ所用で会った北京在住の中国人律師(弁護士)も富裕層のカテゴリーに入るのだが、彼に「中国のバブル崩壊について実感はあるのか?」と尋ねると、鼻息荒く返してきた。
「北京の不動産価格は東京の都心部を凌駕した。いまは多少下がり気味といってもそれは単なる調整にすぎない。それはあなたがたの嫉妬と、そうなったらいいと思う願望だ」
このようにチャイナクラッシュなど夢にも思っていない様子の人物は、気の毒だが、市場の餌食になるのだ
ろう。
一方で、すでに準備万端、そのときを手ぐすね引いて待ち構えるプロフェッショナルもいる。 山東省を本拠とするこのデベロッパー幹部は、マカオを含めて都市部の物件については1年ほど前までに完全に“手仕舞い”したと明かす。
「これまで大都市の不動産取引は勝負度胸がモノを言うチキンゲームが行われてきた。だが、いまは様変わりした。誰が最後にババを掴まされるか。それをめぐっての壮絶な『ババ抜き』が行われている真っ最中なのだ」
抜け目ない彼のもっぱらの関心事は、暴落する都市部の不動産価格が、ボトムに達する時期であるという。
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