[加藤鉱]<中国が重大な経済危機を招くのは時間の問題>香港不動産の売買価格の急落がチャイナクラッシュのサイン
異様に膨張するシャドーバンキングの融資残高、資源輸入の急減、頻発する地方政府のデフォルトなど、中国が重大な経済危機を招くのは時間の問題となってきた。もっとも深刻な現象は、高止まりしていた不動産価格が昨年後半から崩れ始めたことだ。
この20年間、中国の不動産価格は都市部をメインにバブル形成とミニバブル崩壊を繰り返しながら、結果的に右肩上がりとなっていた。だが、昨年初からのインフレ再燃を契機に、中国人民銀行は金融引き締めに転じ、住宅ローンを絞るなどの動きを見せると、住宅市況が冷え込んだ。中国の不動産黄金時代が幕を閉じたのは、誰もが認めるところである。
一方、中国の金融当局は、日本の「1990年バブル崩壊」を徹底的に検証してきた。1989年末に日銀総裁に就任した三重野康は、日本の株価が急落するさなかに金利を上げ続け、公定歩合を6.0%にまで引き上げた。加えて、不動産向け融資を銀行の貸出残高の伸び率以下とする「総量規制」を導入、不動産市況を一気に凍りつかせた。
これが1990年バブル崩壊の〝真因〟であるのに、当時の日本メディアは三重野総裁を「平成の鬼平」などともてはやし、まったく的外れもいいところだった。この三重野総裁の蹉跌を徹底的に学んだ人民銀行は、金融引き締め政策のなかに緩和政策を微妙に織り交ぜて、日本の二の舞となるのを避けてきた。だが、弾けないバブルはない。中国だけがバブル崩壊を免れるわけにはいかない。
昨年同期比で1~2割程度下がり続けている中国の不動産市況が一気に急落するのはいつなのか? これが目下、私の最大の関心事である。なぜなら、不動産バブル崩壊を端緒とする経済クラッシュは、中国から逃げ遅れた、あるいは中国ビジネスを甘くとらえた日本企業に、リーマンショックとは比べものにならぬほどの災厄をもたらすと考えるからだ。
香港・シンガポールを取材してみると、一時のような品のない中国マネーによる不動産の買収は鳴りを潜めていた。私の第2の故郷である香港では、賃貸は相変わらず高止まりしているが、売買価格はじわじわと下がってきている。じわじわしか下がらない理由は、日本の狂気的量的緩和により円キャリで調達した欧米マネーがだぶついて、彼らが香港の不動産を買い支えているからに他ならない。
毎年5月は1年でもっとも不動産価格が下がる月で、例外なく今年も弱い相場だったけれど、それでも大きく下げていないのはそうした資金が不動産に向かっているためである。
取材を重ねてきて、何を中国の不動産バブル崩壊のサインと認めればよいのかがわかってきた。
「香港の不動産を所有する大半の大陸投資家は、大陸での不動産価格下落に伴い、香港の不動産を売却するケースが増えてきた。今後は急増すると見ている」(香港不動産エージェント)
このことは大陸での投資と、香港の物件がヒモ付きになっていることを示している。このエージェントと話していて、私は1990年代に歌手の千昌夫が日本での投資に失敗して、当時保有していた香港のラマダ・イン・ホテルをべらぼうに安い価格で売却したことを思い出していた。
大陸の投資家の心理とて似たようなものだろう。今後、さらに大陸での投資が焦げ付き、香港の物件売却を迫られるならば、香港不動産の売買価格はじわじわ下がる程度ではおさまらないはずである。したがって、香港不動産の売買価格の急落は、チャイナクラッシュのサインとなると見ている。
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【プロフィール】
加藤 鉱(かとう・こう) ノンフィクション作家。立教大学卒業。経済誌勤務を経て、1992年香港で日本語オピニオン誌「サイノエイジア・ファックスライン」を創刊、歴史的な過渡期を迎える香港を独自の視点でレポートした。2007年からは中国ブロック情報局「CHINA LOOP」主筆。現在は東京を拠点に活動中。国内外の政治・経済はじめ文化、スポーツ、ギャンブルまで守備範囲は広い。『香港返還で何が起きるか』(ダイヤモンド社)、『ヤオハン無邪気な失敗』(日本経済新聞社)、『中国ホンダ経営会議』(ビジネス社)、『チャイニーズリスク』(講談社)、『世界でもっとも入りたい5つの会社』(李白社)など著書多数。