[古森義久]<日本の対外発信はアニメ・漫画・寿司だけ?>税金500億円費やす安倍政権の広報戦略は危機感がない
古森義久(ジャーナリスト/国際教養大学 客員教授)
安倍政権に期待されていた対外発信が日本のマンガやアニメ、寿司などの宣伝が主体になる、という報道にびっくりした。
いまの日本は国際舞台での発信不足により国難に瀕している。尖閣、慰安婦、靖国など領土や歴史の重大案件で中国や韓国に徹底して叩かれ、無実のぬれ衣まで着せられて、後退の一途をたどっているのだ。なのに、いまさらマンガや寿司の魅力を政府ベースで発信することを主要政策にするとは、正気とは思えない動きである。
7月28日の読売新聞などの報道によると、日本政府は日本の「ポップカルチャー」や和食を紹介するなど「日本ブランド」の売り込みを目指すという。中韓両国の反日キャンペーンに対抗し、日本の存在感を高める狙いもあるのだという。そのために外務省は8月末にまとめる2015年度予算の概算要求で500億円を計上し、この広報戦略の海外拠点「ジャパン・ハウス」を建設する、ともいうのだった。
こんな対外発信もそれ自体に害はない。だが中韓両国のいまの反日宣伝への対抗策として、というのだから、その思考や効果、優先順位を疑わざるをえない。
そもそも日本食やマンガの普及は民間の商業ベースで自然と進む経済や文化の現象である。日本政府が巨額の公費を投入しなくても、すでに起きている現象でもある。しかも日本のマンガやアニメや寿司が世界的により広まっても、日本への慰安婦問題や尖閣問題での中韓両国の不当な非難への反論や撃破になるはずがない。
この奇妙な構想の主役が外務省だという点にもパズルを解くカギがある。外務省は長年、慰安婦や尖閣という課題について日本側の国益に沿った主張を中韓両国、あるいはアメリカに対して発することは避けてきたのだ。そのかわりに対外発信といえば、まずマンガ、アニメ、映画という発想だったのである。
アメリカでもワシントンやロサンゼルスに外務省の指導下の情報・文化センターがすでにあるが、日本のいまの国益に直結する政治や外交のテーマはまず扱わず、映画の上映やマンガの展示ばかりを続けている。中国や韓国のアメリカでの出先機関が反日の対米発信を続けているのに、あまりの呑気さなのである。
500億円といえば、いまの日本の年間防衛費全体の90分の1、しかも防衛費の昨年分の前年増350億円を軽く上回る巨額の公費なのだ。そんな貴重な国民の税金を放っておいてもどうせ広まるマンガや寿司の普及に投入するとは、納税者への侮辱ではないか。
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