[清谷信一]“報道ヘリ”が象徴する大手メディアの問題点〜災害救助の弊害と匿名の無責任体制②
清谷信一(軍事ジャーナリスト)
[①|②]
公器を自称する大手メディアが自分たちの被災者の生命よりも、自分たちの「ムラの論理」を優先させる姿は醜悪としか言いようがないが、特権意識の成せる技だろう。
2005年の福知山線事故のJR西日本の記者会見では読売新聞大阪本社の記者が、
「遺族の前で泣いたようなふりをして、心の中でべろ出しとるんやろ」
「あんたら、もうええわ、(社長)呼んで!」「そこから先は聞くから」
「はよう呼んでよ!」
「あんたらみんなクビや」
「TVに向かって言えよ顔上げろ!」
「おたくら吊るし上げても しゃあない 社長呼んで」
など、あまり品性がよろしくない質問、というより罵声を浴びせる姿がTVや週刊誌で報道され問題となった。だが大手メディアはこの記者の所属も氏名も公表しなかった。
そこで筆者が独自に調査をし、読売新聞大阪本社の遊軍記者である竹村文之記者であることを突き止め、ブログで公開し1万5000以上のアクセスを得た(註1)。この一件はブログが始まったばかりの時期のネット社会に大きな衝撃を与えた。
これに対して朝日新聞の団藤保晴記者(当時)はブログで記者の個人名を晒したことを批判した(註2)。だが匿名に隠れて責任を負わないのがジャーナリスムとして通用するのは日本の大手メディアだけだ。フリーランスの人間は筆者を含めて署名記事を書き、その責任を負っている。
しかも大手のメディアは抗議をしても大抵無視するし、書いた記者の氏名を教えない。匿名記事はこのような責任逃れの大きな武器となっている。
個人が責任を負わず、責任を組織全体で薄めているのだ。このような組織は社会的なモラルが低くなる。率直に申し上げて大手メディアの記者の記事やっていることは“2ちゃんねる”などの匿名投稿と大差ない。
筆者のブログが影響したかどうかは知らないが、読売新聞はこの記者の行状に対するお詫びの記事を掲載した(註3)。だがそこには記者の氏名は公表されていない。一般企業が不祥事を起こした場合、当人の氏名も公表せず社長も記者会見にでてこなければ記者クラブは烈火のごとく怒るのではないか。だが自分たちのこととなると話は違うらしい。
また筆者は暴言の舞台となったJR西日本の記者クラブ「青灯クラブ」に取材を申し込んだが拒否された。幹事会社の担当記者は自分の所属も氏名も名乗らなかった(註4)。記者クラブ制度という特権的な団体に属している大手メディアの記者たちは、普段は「国民知る権利」を振りかざして居丈高に取材対象に迫るが、一旦自分たちが取材対象になると態度が180度異なってしまう。
まさに「他人に厳しく、自分に甘く」なのだが、このようなメディアを視聴者や読者が信用するだろうか。昨今の新聞やテレビ離れはこのような大手メディアの「正体」を多くの国民が知るようになったことも大きいのではないだろうか。
報道ヘリの問題でも同根だ。自分たちは特権階級であり、個人を特定されて糾弾されることもないと思っているから、いつまでも反社会的な報道ヘリを乱用した取材活動を続けれるのだろう。このような件では地方自治体はヘリを飛ばして捜索を妨害した報道機関の担当者の氏名を明らかにし、法的措置をとるべきだ。併せて住民は有志を募って集団訴訟を起こし、報道機関に対して慰謝料や実害による保障を請求すべきだ。刑事告発もすべきだ。
そうでもしないとメディアの態度は変わらないだろう。
どうしても報道ヘリを飛ばしたいのであれば、報道機関で話し合って代表の1社だけがヘリを飛ばす、あるいは電動式のUAV(無人機)や飛行船など他の取材手段の導入も検討すべきだ。現状の「利権」や「業界の常識」にいつまでもしがみつくのはやめたらどうだ。
- (註1)JR西日本記者会見で罵声を浴びせたヒゲ記者の[正体] 読売新聞大阪本社社会部遊軍 竹村文之(2005/05/11 15:31・著者ブログ記事)
- (註2)新聞記者が匿名ってのは卑怯じゃありませんか? A新聞社記者、団藤保晴さんへの公開質問状。(2005/06/25 23:21・著者ブログ記事)
- (註3)潔くない読売のお詫び。何故に問題記者の氏名を伏せる?(2005/05/13 17:22・著者ブログ記事)
- (註4)仲良きことは醜き哉-JR西日本記者クラブ「青灯クラブ」の閉鎖性(2005/05/21 00:42・著者ブログ記事)
[①を読む]
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