[清谷信一]“報道ヘリ”が象徴する大手メディアの問題点〜災害救助の弊害と匿名の無責任体制①
清谷信一(軍事ジャーナリスト)
[①|②]
大島では台風26号によって多くの死者行方不明者が出ており、未だに発見されていない方も多い。現地で報道ヘリによる騒音が問題となり、東京都大島町は21日、報道機関に対し、報道ヘリコプターの飛行自粛を書面で要請した。
この種の災害救助・捜索では埋もれたり、閉じ込められた被災者の声や、何かを叩いて合図するような音が発見の最大の頼りになる。特に高い生存が期待できる災害発災から72時間は、重要で「黄金の72時間」とよばれており、高い生存率が期待できる期間は尚更だ。
この時に多数のヘリコプターが上空で乱舞すれば捜索や人命救助の妨げになる。本来助かる人間を殺してまでも上空から「絵」を撮影する公共のメリットはない。こんなことは子供でも分る道理だ。だが大手メディアにはわからないらしい。
この手の報道ヘリによる「救助の妨害」は今に始まったことではない。2005年(平成17年)4月25日に発生したJR福知山線脱線事故は乗客と運転士合わせて107名が死亡したが、この時も報道ヘリによる騒音が問題となった。
だがメディアは全く反省がないらしい。当時もメディアでは最新鋭の低騒音ヘリを導入しているからなどの言い訳をしていたが、ヘリコプターの構造上、画期的に騒音が減るものではない。
我が国には約100機の報道用ヘリが存在する。フランス陸軍のヘリ連隊二個連隊分に相当する機数であり、これは世界でも類がないほどの機数だ。これは大規模メディアの数が数多く、それぞれが報道ヘリを保有しているという我が国固有の環境があるからだ。
だがこの狭い国土でこれだけ多くの報道ヘリが必要だろうか。単に新聞やテレビ業界内にしか通用しない「抜いた、抜かれた」というようなくだらないこだわりでヘリを飛ばしているのではないか。
読者、視聴者からみればヘリが撮影しても得られる映像・画像は大同小異であり、業界村の自慰行為にすぎない。
(続く)
[②を読む]
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