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.社会  投稿日:2014/9/17

[安倍宏行]【誤報訂正連鎖、どうなる朝日】



Japan In-Depth編集長

安倍宏行(ジャーナリスト)

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慰安婦問題報道の誤報訂正に続き、吉田調書についての記事も撤回した朝日新聞。一体何が起きているのか?ヒントが14日の朝日新聞朝刊にあった。特別編集委員星浩氏の記事「日曜に想う」である。星氏はこう指摘している。

「35年間の記者生活で感じるのは、朝日新聞内で時折、事実の発掘・報道とは別に、行き過ぎたキャンペーンを展開しようという動きが出て来ることだ。そうした点が、今回の問題などに通じることなのかどうかも検証すべき課題だろう。」

吉田調書のスクープは、ごく少数のチームで極秘に進められたという。

朝日新聞の杉浦伸之前取締役編集担当は11日の記者会見で、「意図的な記事を書いたのではないかという話だったが、そういうことではございません。非常に秘匿性の高い資料であったために、吉田調書を直接目に触れる記者の数をすごく限定しておりました。結果として、チェックが働かなかった。」と語り、取材班以外の記者やデスクの目に触れる機会を極力絞っていたことを認めている。


また、吉田氏の発言の一部(「
よく考えれば2Fに行った方がはるかに正しいと思ったわけです。」)を欠落させて引用したことについて、朝日新聞は12日の経緯報告で、「吉田所長が所員の行動について後から感想を述べたにすぎず、必ずしも必要なデータではないと考えていた。発言の評価を誤り、十分な検討を怠っていた。」とし、少人数での取材にこだわって十分に情報を確認する機能が働かなかったことを明らかにした。

大スクープの場合、内容の秘匿の観点から、関与する人数を極力絞るのはメディアとして特別なことではないが、問題は、「何が何でもスクープを取れ」といった、記者の勇み足を誘発するような報道局内の強いプレッシャーがあったのではないか、ということだ。

思い出すのは、ニューヨーク・タイムズ紙のジェイソン・ブレア元記者が、2002年10月以降、執筆した記事73本のうち、約36本が盗用や捏造であることが発覚し、2003年に辞職した事件だ。あのニューヨーク・タイムズが!と衝撃が走ったが、2003年5月に詳細な検証記事を紙面に載せると同時に編集幹部を辞任させ、名誉を回復した。

この事件はなぜ起きたのか?ブレア元記者の個人的な資質の問題はあったろうが、アメリカ社会特有の問題である、「積極的差別是正措置(Affrimative Action)」と呼ばれる、マイノリティー優遇策の存在も当時指摘された。

 

アメリカでは、白人以外のマイノリティーの仕事に文句を言うと、すぐ人種差別だと訴えられるかもしれない、とどの職場でも腫れ物に触るような雰囲気が蔓延しているが、そうした社会的な背景も事件の誘因になっていたのでは、との分析だ。

 

ブレア事件は直接朝日新聞のケースに当てはまらないが、なぜ吉田調書を読み間違えたのかを検証するのに参考にはなる。結論ありきでキャンペーンを張ることを求める方針やそれに基づくプレッシャー、誰かが間違いに気づいてもそれを言い出せない雰囲気などはなかったか、ということだ。誤報を招いた責任が組織になかったのかどうか。そこを明らかにしない限り、また同じことが起きるだろう。

朝日新聞は、思い込みや記事のチェック不足などがなぜ起きたのか、新しい編集担当中心に、各本社局長、大阪や名古屋、西部の編集局も参加して、「信頼回復と再生のための委員会」(仮称)を立ち上げ、あらゆる観点から取材・報道上で浮かび上がった問題点をえぐり出す、としている。また、誤報がもたらした影響などについては、朝日新聞社の第三者機関である「報道と人権委員会(PRC)」(注1)に審理を申し立てたという。

朝日新聞の記者たちがいくらSNSでぼやいても何の解決にもならない。気になるのは、「信頼回復と再生のための委員会」に外部の人間が入るのかどうかだ。内部だけの検証結果は信頼性を担保出来ない可能性が高い。本当に信頼回復を目指すなら、外部の人間を入れた、真の第三者機関の検証結果をあますことなく紙面で公表する以外、道はない。

注1)

 <報道と人権委員会(PRC)〉 

朝日新聞社と朝日新聞出版の記事に関する取材・報道で、名誉毀損(きそん)などの人権侵害、信用毀損、朝日新聞社行動基準などの記者倫理に触れる行為があったとして、寄せられた苦情のうち、解決が難しいケースについて審理する第三者機関。調査、審理の結果は見解としてまとめ、公表することができる。2001年に発足した。苦情申立人のほか、審理対象となる朝日新聞社や朝日新聞出版からも、審理を要請することができる。

最近では、いわゆる「ロス疑惑」をめぐる名誉毀損訴訟の判決報道に関し、遺族側の申し立てについて、今年6月に判断。この訴訟自体は朝日新聞側が勝訴したが、PRCの見解は、判決で朝日側の主張が認められなかった部分も含めて、「正確に報道することが公正な態度」との考え方を示した。これを受けて、朝日側は、見解を反映させた記事を再掲載した。これまでに、朝日新聞や朝日新聞出版に何らかの是正を求めた見解は10件を超える。現在の委員は、早稲田大学教授(憲法)の長谷部恭男氏、元最高裁判事で弁護士の宮川光治氏、元NHK副会長で立命館大学客員教授の今井義典氏の3氏。

(朝日新聞による)

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