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.経済  投稿日:2014/10/15

[岩田太郎]【米金融政策、タカ派化の内幕】~肉を切らせて骨を断ったサマーズ元米財務長官④~


岩田太郎 (在米ジャーナリスト)「岩田太郎のアメリカどんつき通信」

 

■FRBのハト派色を薄めるフィッシャー副議長

筆者は昨年12月9日にサマーズ元米財務長官(59)を取材したのだが、約束の時間より20分ほど待たされた。我慢できなくなって、秘書に「まだですか」と聞くと、「大事な電話がかかってきて、外せないんですよ」と教えてくれた。

ピンときた。ちょうどその時期に、米連邦準備制度理事会(FRB)副議長就任を打診されていた前イスラエル中央銀行総裁で、サマーズ氏の恩師でもあるスタンレー・フィッシャー氏(70)か、彼に絡む重要な会話ではないか、と感じた。

フィッシャー氏は今年6月にFRB副議長に就任し、時にはハト派的言辞を操りながらもジャネット・イエレンFRB議長(68)のハト派的な立場をじわじわと修正に追い込んでいると目される大物である。

フィッシャー氏は昨年9月、「FRBがこれから何をするか詳しく述べることはできない。なぜなら、FRB自身もわからないからだ」と言明している。この立場が、議長就任前のイエレン氏が当時のベン・バーナンキFRB議長(60)と共に掲げていた政策指針を無力化したのだ。その指針こそが、利上げは当分先だと示すハト派的な、経済指標に基づいた「フォワード・ガイダンス」だ。

事実、フィッシャー氏がFRB副議長になると、イエレン議長の発言はますます慎重になり、バーナンキ時代の「失業率など経済指標に基づく政策の透明性」や「利上げなどの政策見通しに関する市場対話」は、うやむやにされ、過去のものになりつつある。フィッシャー氏は、その信念である「市場に次の手を悟らせない中央銀行の権威」をFRBに取り戻したのだ。

このフィッシャー氏をサマーズ氏がFRBに呼び込もうとしている、とする噂は、昨年12月初旬から囁かれていた。師弟関係である二人の関係は、当時際だって演出されていた。例えば、昨年11月8日に国際通貨基金(IMF)がフィッシャー氏を顕彰する会議の場で、サマーズ氏はパネル討論にフィッシャー氏やバーナンキ前FRB議長と共に出席していた。

米国を含む先進国の経済が構造的に、バブルの支えがないと需要が作り出せないような停滞期に入ったとする、有名な「長期停滞論」をサマーズ氏が唱え始めたのは、この場であった。

しかし極めつけは、フィッシャー氏をFRB副議長候補に指名したのが、経済政策立案の面でサマーズ氏と一心同体であり、一度はサマーズ氏をFRB議長候補に指名したオバマ大統領であることだ。

サマーズ氏は「金融政策に頼りすぎることは、もはや望ましくない」と筆者に語ったが、結局、この考え方がオバマ大統領やフィッシャーFRB副議長にも共有され、現在のFRBで水面下の勢いを得ているように見える。それが円安などの現象になって表出しつつあるのだ。

サマーズ氏はFRB議長になり損なったが、その主張がイエレン議長さえも抑えて主流になった。まさに、サマーズ氏は肉を切らせて骨を断ったと言えるだろう。(了)

 

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