[岩田太郎]【エボラ出血熱、実は感染力低い?】~米国からの教訓① 感染医師のウソが明らかにしたこと~
岩田太郎 (在米ジャーナリスト)「岩田太郎のアメリカどんつき通信」
エボラ出血熱の感染中に地下鉄やウーバータクシーに乗ったり、ボウリング場に行ったことが明るみに出て、人口840万のニューヨーク市をパニックに陥れたクレイグ・スペンサー医師(33)が完治し、11月12日に退院する。
実はこの医師、当局者に申告した以上に活発に動き回っていた。10月29日付の『ニューヨーク・ポスト』紙が警察関係者の話として報じたところによると、スペンサー医師のプリペイド型地下鉄乗車券「メトロカード」やクレジットカードの使用記録を調べると、出るわ出るわ、「彼がここにも、あそこにも出没し、ニューヨークを北へ南へ、東へ西へ縦横に動き回っていた」ことが判明したのである。
しかし、この虚偽の申告は、図らずもエボラ出血熱の感染力の低さを明らかにする結果を生んだ。スペンサー医師はあちこちで、目をこすった手で公共の場所にあるものに触ったり、咳をして飛沫を撒き散らしたかも知れない。だが、今のところニューヨークでは、二次感染が報告されていない。
一方、死亡患者1人と二次感染者2人を出したダラスでは終息宣言が出された。感染中に微熱がありながら飛行機に搭乗してクリーブランドに出かけた看護師、アンバー・ビンソンさん(29)から三次感染した人の話は聞かない。
10月8日に亡くなった感染者のトーマス・ダンカンさん(享年42)を、9月25日に病院へ搬送したダラス市消防局の救急車第37号に、ダンカンさんの直後に乗ったマイケル・ライブリーさん(52)は、車内にダンカンさんの体液が残っていた可能性があるにもかかわらず、感染しなかった。この車両は24時間後に使用停止になるまで、多くの患者を搬送し続けたが、感染者は出さなかった。ダンカンさんの婚約者など、身近に接触した人たちも、すべて陰性で終わった。
さらに、メーン州知事の強制自宅隔離命令を無視して外出を強行した看護師ケイシー・ヒコックスさん(33)からの二次感染も報告されていない。同州の地裁は10月31日、「自宅隔離には理由がない」として州のヒコックスさんに対する命令を退け、州衛生当局への連絡を条件に外出の自由を認める判決を下した。ヒコックスさんはその後、メーン州を去る決心をしている。
考えればすぐに気がつくのだが、アフリカ帰りの医師や看護師は隔離をする一方、ダラスやニューヨークなどアメリカ本国で感染者の治療に当たっている医師や看護師を隔離しないのは、一貫性がない。米国内で感染者に接触する医療従事者には1日2回の体温計測・報告義務が課せられており、この現在のところシステムは機能している。
しかし、感染の疑いのある者の虚偽申告や過少申告は、社会を一層怖れさせている。なぜ、彼らはうそをつくのか。次回はそのメカニズムについて考える。
(つづく)
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