無料会員募集中
.国際  投稿日:2014/10/19

[大原ケイ]【米エボラ熱パニックの裏とは】~国民を恐怖に陥れオバマを追い詰めようとする共和党~


大原ケイ(米国在住リテラリー・エージェント)「アメリカ本音通信」

執筆記事プロフィール

 

連日のようにアメリカのマスコミで伝えられるエボラ熱感染拡大の恐怖…だがこれには政治的な意図がある。

現在の時点では、西アフリカ国内で感染したアメリカ人がテキサス州内で発病し死亡。

その際のパンデミック対策の杜撰さからこの患者の手当にあたった医療従事者が2人二次感染してしまった、というだけのことだ。エボラ熱は空気感染しないし、潜伏期間中は感染しない。それをなぜこんなにまで騒ぐのか。

11月4日に中間選挙があるからだ。特に注目されているのが上院選挙で、現在60席対40席で民主党がなんとか法案を通過させるために必要な人数を保っているが、下院は既に共和党が過半数を占めているため、上院の議員が少しでも減ると米議会での“ねじれ”がなくなり、上下両院を握った共和党は次の大統領選までの2年間、オバマ政権が進めようとしている政策すべてをジャマすることができるようになるので、共和党も必死なのだ。

テキサス州では前回、共和党から大統領選に出馬したリック・ペリー州知事が、自分の公約として廃止にしたい3大連邦政府機関(商務省、教育省、エネルギー省、これだけでもずいぶんメチャクチャな公約だが)を掲げていたが、全国生放送のディベートで3つ目をど忘れし「3つ目は… 3つ目は… なんだっけ、しまった」と大恥をかいた人物で、性懲りもなく次の大統領選を狙っている。

なんのことはない、今回の感染もテキサス州が「小さい政府」を目指すあまり、保健衛生機関を始めとする自治体の予算を削ってきたツケが回ってきただけのことだ。カンペキだと思われた防護服に穴が開いていたとしたら、メンテナンスの問題だろうし、その防護服の着脱の際に感染したのなら、医療従事者の指導を怠っていたからだろう。

あまりにもお粗末なテキサス州の対策が失敗したら、今度はまるでそれがオバマ大統領がようやく実現させた医療保険制度改革(俗称オバマケア)のせいだと言わんばかり。挙げ句の果てにはメキシコからの移民を阻止するのに使えると「この際、海外からの入国を厳しく制限してはどうだ」と言い始める政治家まで出る始末。

毎年インフルエンザや、それをこじらせた肺炎で数万人が亡くなるアメリカ。エボラの心配よりインフルエンザの予防接種をした方がいいと、正論を説くレポーターがいないわけではないが、昔から『ホット・ゾーン』(注1)がベストセラーになったり、ハリウッド映画『アウトブレーク』(注2)など、見えない仮想敵と戦うドラマが大好きなアメリカ人のこと。

オバマ大統領が国家主導の対策としてエボラ熱対策の「ツァール(特別対策委員会長)」を指名したが、今まで彼がこういったリーダーを指名するのを「帝政」と非難してきた共和党への当てつけとも取れる。ちなみに指名を受けたロン・クラインは、政調は得意だが医学知識はまったくない人物だ。

国民に大げさに恐怖を植え付けて、来月の選挙で共和党に一票を入れさせようとするのと、外国人を人質にとって斬首する映像をユーチューブに上げるイスラーム国の指導者も、同じterror(恐怖)を政治手段とするテロリストの手口ではないのか。

(注1)ホットゾーン

Hot Zone リチャード・プレストン著のノンフィクション小説。エボラ出血熱制圧に挑む医師や兵士らの苦闘を描いた。

(注2)

アウトブレイク Outbreak

1995年アメリカで制作された映画。アフリカから持ち込まれた謎の致死性ウィルスによる伝染病に挑む軍関係者や医師を描いたサスペンス大作。

 

【あわせて読みたい】

[青柳有紀]<西アフリカで拡大するエボラウイルス>エボラ・パンデミックはアフリカ大陸の貧困問題と不可分

[宮家邦彦]<注目のアメリカ外交>オバマ大統領のアジア歴訪とバイデン副大統領のウクライナ訪問[外交・安保カレンダー(2014年4月21-27

[古森義久]<オバマ大統領 支持率41%、最低水準に>超大国らしい指導権を失わせた米オバマ外交

[藤田正美]米共和党の「失敗」と教訓

 

profilephoto 【執筆者紹介・大原ケイ(おおはらけい)】

ニューヨークを拠点に日本の著書を欧米に売り込むべく孤軍奮闘するリテラリー・エージェント。ニューヨーク大学の学生だったときはタブロイド新聞の見出しを書くコピーライターを目指すも、今はバイリンガルで親爺ギャグを飛ばすに至る。

 

タグ大原ケイ

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."