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.国際  投稿日:2014/11/14

[岩田太郎]【エボラ出血熱、冷静が一番の特効薬】~米国からの教訓② 感染の疑いがある者のウソを防ぐために~


 岩田太郎(在米ジャーナリスト)「岩田太郎のアメリカどんつき通信」

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エボラ出血熱の流行地リベリアで感染し、米国で発病して10月8日に亡くなったトーマス・ダンカンさん(享年42)は、心優しい人だった。リベリアを出国する直前の9月19日に、ある妊婦が病院行きのタクシーに乗るのを介助して感染したと思われる。この19歳の妊婦は、同日夕刻にエボラによって、搬送先の病院で死亡した。

一方のダンカンさんは同日の出国時、リベリアの官憲に、「エボラ感染者との接触歴はないか」と聞かれた際、「ない」と申告して航空機に乗った。彼は、ベルギーのブリュッセル空港を経由し、米首都ダレス空港で発熱などの症状がないまま入国し、飛行機を乗り継いで婚約者が待つダラスに到着している。

ダンカンさんは、なぜ「感染者との接触はない」と申告したのか。助けた妊婦が、まさかエボラに感染しているとは知らなかったのかも知れない。あるいは、心の中で「ひょっとして」と思いながらも、婚約者に会いたい一心で、リベリアに引き止められることを怖れてうそをついたのかも知れない。

エボラ退治に出かけたギニアで感染し、米国に戻ったクレイグ・スペンサー医師(33)の場合は、ニューヨークで自分の立ち寄った場所や利用した交通機関を過少申告していた。「アフリカ帰りの医師や看護師を、例外なく21日間強制隔離せよ」との世論が強まるなか、「感染の危険があるにもかかわらず、動き回った無責任な医師」とのレッテルを貼られることが怖くなったのだろうか。

エボラ感染が疑われたが、後に陰性と判明した東京都町田市の60代男性は、エボラ流行地への渡航歴があるが、感染者との接触歴がないことを、入国時に検疫に申告した。だが、自分を診察する医療者には、それを申告しなった。治療を拒否されたり、手軽に受けられないことが怖かったのかも知れない。

一連の不完全・虚偽申告事例で考えられる共通の理由は、社会の冷静を欠いた対応に対する怖れである。うそはいけないが、うそをつかせないためには、正直さが罰されない社会の雰囲気が必要だ。国家の指導者が、「感染者は不利にならず、社会は間違いを犯した感染者も支援する」という強いメッセージを出さなければならないだろう。

折しも、高知県でエイズウイルス(HIV)感染者が5月に、高知市内の内科を受診しようとして、感染を理由に断られたことが報じられた。医療機関でさえこの有様なら、各種の感染病患者は自己申告をためらうようになるかも知れない。そうなれば、患者は潜伏状態になり、感染を効率的にコントロールすることが難しくなる。米国のエボラ騒動から得られる教訓は、「冷静が一番の特効薬」ではないだろうか。

 

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