<ベネッセ情報流出問題>「お詫びはひとり金券500円」発言は原田社長の当事者意識欠落の象徴
Japan In-Depth編集部
760万件(今後さらにふくらむ可能性も充分ある)の個人情報漏えいという大惨事を招いた企業、ベネッセ。先日行われた謝罪会見を見る限り、そのあまりの軽いノリに驚きを隠せない。
7月17日の謝罪会見でベネッセの原田泳幸会長兼社長は個人情報漏えいへの対策費としてかかげた200億円の使いみちとして「おわびの品」を挙げ、その金額について「過去の事例では、ひとり500円の金券」と答えた。
今回の会見で具体的に500円の金券という数字が出たこと自体、「舞台裏」で交わされた内容をうっかり喋ってしまったと思われる。他社の情報流出の事例で、裁判所が認定した慰謝料額は、数万円という例もある。
連日ベネッセには苦情と問い合わせが殺到しているのであろう、解約しようにも電話がつながらない状態で悩み、不安に過ごしている利用者がたくさんいる中、「おわび」が「500円の金券」という「過去の事例の下限」に相当する生々しい金額を提示するのは、教育関連に限らずどんな業種の企業にとっても危機管理上、致命的なミスだ。
しかも、ベネッセの利用者の大多数は、依然として実際に何が起きたのかを会社から何も直接知らされていないのだ。
実際に、利用者がいまどのような状況におかれているか、ご説明しよう。我が家もベネッセが提供している通信教育プログラム「こどもチャレンジ」に入会しているが、事件が発覚して以来、個人的な謝罪メールや、いわゆる「封書」は届いていない。事件に言及したメールは、ベネッセが発表して漏えいが大々的に報じられた7月9日から5日後の7月14日が最初だ。通常送られてくるメルマガに便乗した形で、冒頭に以下の文章があった。
「お客様の個人情報漏えいにつきまして、多大なご心配、ご迷惑をおかけしまして深くお詫び申し上げます。安全性確認のためにデータベースを一旦ストップしており、babyメールマガジンについても配信が遅れましたことをお詫び申し上げます」
その後、以下のようにしれっとメルマガがはじまる
「こんちには!こどもちゃれんじbaby編集部です」
絶句してしまった。日々、報道では様々な情報が入ってくる。実際に業者に売られた情報は2013年度までのものだ、とか。だったら今年産まれたウチの子は大丈夫か?と思った矢先、容疑者は今年6月まで情報のダウンロードを続けていた、との報道が出てくる。そうこうするうちに、ベネッセが謝罪の封書の郵送をはじめた、と伝わる。だが我が家には一向に送られてこない。ここで、筆者のような今年ベネッセに入会した親としては様々な推測をしなくてはいけない。
「我が家に封書が来ないのは、入会が今年に入ってからで、流出した760万件に該当しないからかしら?まずは該当している人から先に郵送しているのかしら?もう少し待てば届くのかしら?」
しかも通常のメルマガさえも配信が遅れている。何とそれが「安全を確認」するために「データベースをストップ」させていたから、というではないか。利用者のためを思えば、まずは現状で把握している情報と謝罪を何よりも先に、直接利用者に届くメルマガで知らせるべきではないだろうか。
しかも遅れたのはメルマガだけでなく、毎月届くはずの教材も7月号はまだ届かない。それに関するお詫びも何も無い。一括払いであれば1600円ほど、都度払いであれば2000円ほど、毎月支払っているにも関わらず。
そこに原田社長から「500円の金券」発言が飛び出した。これが「おわび」の気持ちを示すどころか、保護者の感情を逆なでする発言であることが、目下の利用者のおかれた状況からおわかりいただけると思う。
ママたちの神経を逆なでしてるのはそればかりではない。
ベネッセの原田社長だが、早い段階でベネッセの情報を購入した他社の行動を非難したり、すべての責任は下請け企業にあるかのような物言いが目立つ。要するに、このような不祥事を起こした企業にとって最も重要な「当事者意識」が欠如しているように見受けられるのだ。
その最悪の例として指摘しておいきたのが、原田社長が「自分が就任する以前に起きたことで正直言って迷惑」といった風に、今回の情報漏えいを「他人事」に感じている雰囲気を出してしまっている点だ。もしかすると原田氏は真摯に申し訳ないと思っているのかもしれないが、一般に与える印象はその真逆であることは否めない。
当然のことながら、有事は初動が肝心なのだ。その初動で、ベネッセはやること成すこと、ことごとく裏目に出て、絶対踏んではいけない地雷をご丁寧にすべて踏んでしまった。その証拠に、Japan In-Depth編集部にも「ベネッセは解約しよう」と思っている親がいるのだ。
【あわせて読みたい】
- データ・ジャーナリズムの課題は、技術ではなくガバナンスにある?(西田亮介・立命館大学大学院先端総合学術研究科特別招聘准教授)
- <サイバー攻撃の驚異>中国共産党の指令下にある情報通信企業がシェアを拡張する海外の通信インフラ市場(田村秀男・産経新聞特別記者/編集委員)
- テレビ・キー局内定者の大学生が飲み会で自慢トーク 「オレたち、すごくね?」論争の愚(安倍宏行・ジャーナリスト/Japan In-Depth編集長)
- <テレビニュースの敗因>テレビは「リード文」を上手に書ける記者を育ててこなかった(高橋秀樹・放送作家/株式会社クリア・代表取締役)
- <Twitterの炎上>ジョークをジョークで楽しめない日本にもはや言論の自由はない(熊坂仁美・ソーシャルメディアプロデューサー)