[岩田太郎]【四面楚歌マクドの起死回生策】~日系人タレント起用に活路~
岩田太郎 (在米ジャーナリスト)「岩田太郎のアメリカどんつき通信」
最近のマクドナルドは、四面楚歌だ。日本では2014年12月期の連結業績予想を大幅に下方修正し、売上高が前年比15.1%減の2210億円、最終損益が170億円の純損失を予想している。期限切れ鶏肉を使用していた仕入先の「上海福喜」問題が主因と説明されているが、顧客ニーズを無視して愛想を尽かされた構造的問題が繰り返し指摘されている。
一方、総本山の米マクドナルドも、4~6月期の売上が前年比1.5%下落し、危機感を募らせている。特に問題なのが会社のイメージだ。期限切れ鶏肉問題以外にも、屑肉加工製品である「ピンクスライム」をハンバーガーに使用しているとの評判がある。5月には、新キャラクター「Happy」の顔が怖すぎると話題になり、撤回した。米消費者情報誌『コンシューマー・レポート』は7月号で、マクドのハンバーガーを、「米国で最悪の味」とこき下ろした。
さらに、従業員に最低賃金しか支払わないため、生活苦を訴える従業員がストを繰り返したり、本社に抗議に押しかけて逮捕されるなど、「社会的責任を果たさない企業」とのイメージが定着しつつある。昨年10月には「マクドナルドの好収益は、生活苦に陥った従業員に各種公的扶助を受けさせて達成したもので、血税の悪用だ」とする研究も出た。
これ以上のイメージ悪化を食い止めるため、米マクドナルドは今月からツイッターやフェイスブックなどのソーシャルメディアを駆使したイメージ戦略を展開している。
その主役は、ロサンゼルス生まれの日系4世で、ディスカバリーチャンネルのTV番組「怪しい伝説」のギーク・キャラクターとして親しまれているグラント・イマハラ(日本名は今原真申、「まさる」)だ。
ソーシャルメディアを通して全米に拡散中の動画では、グラントがマクドにパティを卸している米穀物メジャーで、精肉も手掛けるカーギル社の工場見学に出かける。製造工程をすべて見せて、「ピンクスライム」(注1)や添加物は使っていないことを確認する。最後の試食では、いかにもおいしそうに製品をほおばる。
このキャスティングは、非常によく考え抜かれている。米国での日系人のイメージは勤勉で誠実で、権威に逆らったりしない「模範少数民族」だからである。加えて、誰にも好かれるグラントの人柄、ディスカバリーチャンネルで培った信用力など、説得力がある。「もし自分がティーンなら」と考えると、マクドに対するイメージは良くなると思う。ティーン層や20代こそが大きな狙いのはずだ。
もちろん、このキャンペーンでは米マクドナルドが2012年までピンクスライムを使っていたことには触れない。米国内では、表面張力を低下させるシリコーンの一種であるジメチルポリシロキサン(人体には無害)がチキンマクナゲットを揚げる油の消泡剤として使われていることも言わない。ヨガマットの材料である有機発泡剤、アゾジカーボンアミドが米国のバン(パンの部分)に使われていることも、知られていないだろう。
筆者の地元イリノイ州にはマクドナルドの本社があるが、多くの店舗は清掃が行き届いておらず、注文をよく間違えるので、ここ数ヶ月行っていない。だが、若い人向けの「グラント効果」は近いうちに目に見える形で出てくるかも知れない、と思う。メッセンジャーに信用力があるからだ。
注1:Pink Slime(ピンクスライム): 添加物を使用した加工肉の俗称。
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