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.国際  投稿日:2015/2/12

[岩田太郎]【米国、ISIL退治に本腰】~長期化と戦線拡大は必至~


岩田太郎(在米ジャーナリスト)

「岩田太郎のアメリカどんつき通信」

執筆記事プロフィール

 これは、ISIL(「イスラム国)が米国を中東で終わりのない戦いの泥沼に引きずり込むための一連の挑発が、実を結んだ結果だろうか。米国人女性人質のケイラ・ミューラーさん(享年26)の死亡が確認された直後の2月11日、オバマ大統領は過激派組織ISIL掃討に向け、米議会に武力行使決議案の承認を求めた。

具体的な内容は、米軍がイラクとシリアで人質や捕虜の探索・救助活動を行えるようにすること、ISILの指導者を殺害すること、米国や友邦の諜報活動支援を行うこと、ISIL と戦う有志国の作戦に助言と支援を行うこと、が含まれる。ただし、3年の期限付きで、長期化させないとの制約がついている。

米国内の反応は、「すでに行っている戦いに、なぜ今更、議会の承認が必要なのか」という懐疑の声が多い。共和党議員からは、「ISIL撲滅の手を縛る文言を入れるのは理解できない」との声が噴出している。

ベトナム戦争でジョンソン・ニクソンの2名の元大統領がやりたい放題をして、米国が泥沼にはまって疲弊した反省から、米議会は1973年に戦争権限法を通過させ、米大統領の手足を名目上、縛っている。だが、結局は大統領の戦争遂行を追認することが多い。

著名なジャーナリストのフレッド・カプラン氏は、「なんだかんだ言っても、米議会は最終的に対ISIL戦線拡大に合意する。もし拒否してISILが勢力を増大させれば、議員たちの責任になるからだ」と看破している。

オバマ大統領は、地上軍の派遣を最小限に抑えたい。だが、中東各地で神出鬼没に拡大中のISILに対して兵力を小出しにし、作戦地域も限定すれば、「モグラ叩き掃討」になり、かえって米国は戦線拡大という泥沼にはまる。遠からず、全面的な地上軍投入に追い込まれよう。

こうしたなか、米国内に中東から「戦線飛び火」の兆候が3つ現れた。最初は、シリアのISIL支配地域からの難民を今年中に2000人、米国に移民として受け入れる、オバマ政権の政策だ。難民の中にISIL分子が混入することを警戒する共和党は、「連邦政府が費用を負担して、米国にジハード(イスラム聖戦)輸送のパイプラインを敷設するようなものだ。」と大反発している。

次は、南部ノースカロライナ州の大学街、チャペルヒルで2月10日に起こった、白人のクレイグ・ヒックス容疑者(46)による、イスラム教徒の隣人3名の射殺事件だ。

現地警察は「ヘイトクライムではなく、駐車スペース争いが動機だ。」と発表する一方、同市のマーク・クラインシュミット市長は、「イスラム教徒の命は、大切だ。」と述べ、憎悪の連鎖を防ごうと躍起だ。

筆者は学生時代、同市に一年間住んでいた。その当時から中東からの移民は多かった。黒人も多く、白人と非白人の人種間緊張を、肌をもって感じた。起こるべくして起こった事件だろう。

殺害された3人のうち、2人は姉妹だった。女子学生ラザン・アブ・サルハさん(享年19)とユソール・バラカットさん(享年21)の父親モハマド・アブ・サルハさんは、「これはヘイトクライムだ。ユソールと(歯科学生の夫の)デアー・バラカット(享年23)は、銃をベルトに装着したヒックス容疑者につきまとわれていた。娘は、『憎悪に燃えたお隣さんだ』とこぼしていた」と証言している。

最後は、黒人メディアに現れた、「ISILによるヨルダンのムアズ・カサスベ中尉の生きたままの焼殺は、南部で過去に頻発した白人による数千人の黒人リンチ(私刑)のやり方にそっくりだ」という論調だ。

米国の各方面で、憎悪が勢いを得始めている。それ以外にも、米軍人の配偶者のツイッターを乗っ取って、「お前たちの所に現れ、殺す」と脅迫したり、『ニューズウィーク』誌のアカウントを乗っ取ってオバマ大統領の夫人や娘2人の命を狙うと警告するなど、ISILは、戦闘員を派遣することなく後方(米国内)の攪乱にも成功しつつある。オバマ大統領をはじめ、米政治家の指導力が問われる局面だ。

 


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